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クラシカ(バッハ)/微卑猥/店長
[嵐と花束のセレナーデ]


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『ん……ぁ…』


逢瀬を重ねる夜の吐息が響く
邪魔の入る事は無い
私に許された、限り有る安らぎの間

爛れた月明かりの中

髪の香りが揺れる度 甘い、甘い痺れが広がる

獣のように激しく求め合い、またもや互いを知り合う


水音、舐める、噛みつく、そんな口の動きを
もう一度、もう一度、と重ねる

繰り返す度、歪に丸みを帯びて この感情も先程よりは柔らかくなる

なのに


私達は口付けをしない


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『それじゃ…』

歩いて行く 君の背中を見送る


あの日の成り行きから今日まで続けている、この青臭い情事

このままでは、崩壊を招き兼ねない事は知っている

だから

別れの朝に 感情移入する言葉は使わない
どんな言葉を紡いでも 私の想いの丈を全て君に届けることは出来ないだろうから


それで良い
そのままで良い

君は 兄弟達の暮らす塒(ところ)へ帰る
そして私の兄妹なのだ

結ばれる事は許されない
だから 離れて暮らそう


しかし 惹かれ続ける
好き合い続ける

細胞一つ一つに組み込まれているかのような本能で、煩悩で
焦がれる


近付けば近付く程 傷ついて遠くなる
遠ざければ遠ざける程 錆のように心を蝕む


どうしようもない
こんな炎の迷宮に閉じ籠められてしまった

だけど、泣かない 泣けない
それは既に慟哭だが、もう


そのままで
そのままで


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三弦「バッハ様…大丈夫ですか?」

チャイコ「バッハ様…」

バダ「バッハ様?」


周囲がざわめく

こんな顔もこんな気持ちのままで居ることも 悟られないように仮面を張り付けていられたら楽なのに…


呑み込み過ぎた、君への気持ちが、形にならないままで泡のよう
肺に貯まっていくのだ
息苦しい


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「今日、いつもの場所で━」


通信端末に打ち込む連絡

拒絶されたなら どうすれば良いだろう、などと この見掛け倒しの弱気な胸に恐怖を抱いて
一思案


見詰め続けたい
見詰め続けられたい

嗚呼、募るモノを 夜毎 膨らませ…


君の唇への、私の唇による絆ー、
キスをしない絆が
最後のけじめだと決めている


この砦を崩して仕舞えば
二人は戻れない、戻らない


きっと君もそう決めている



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震える身体が、すれ違った視線にあとから気付くように
微熱を後悔で彩る

記憶で、遠くで、魅る君への不安が この想いを煽る

結局 何も抑えられずに また君の体温を奪い
私の体温を預ける


君の奥に熱を放った事もあった

しかし 唇だけは届かないままで


「逸その事」

「逸そ…」


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リスト「彼女の気持ちを、アンタのねじまがった解釈で押し潰すの?」


ベト「下らん…お前の言う愛とは、表面上のものではないか」


響吾「バッハは…頑なに考え過ぎじゃない?」



許されるならば
許されるならば


私の胸の風音を集めたブーケを君に贈ろう

君の心に虹を掛けられるだろうか

何もかもを捨てて裸に成る心は得意では無い
だけど だけど 伝えられたなら
抱き締めてくれるだろうか

嗚呼 夢の中で良い、どうかどうか


想いを、キスを


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時間が過ぎていく

会えない時間が 重く過ぎる
次の約束の逢瀬が 待ち遠しくて堪らない

地獄なのか
しかし 救済にも似た安心感があるのは
君との紛れもない約束事だから


これ程までに、切ない恋だけど
この約束がある限り、君の瞳に住み続ける事はできるから

この悲しみ一つすら いとおしい
君が教えてくれたものだから


頭上に広がる青空を眺めて
また 君の笑顔を思い出している


━━

響吾「君は自由だよ」

「クラシカロイドは自由だ」


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だから、もう、迷わない


今 空高く 伝えよう
愛を仕舞い込んだ小夜曲


あの輝く星屑よりも 光り放つ事が出来たなら…
私を見詰めておくれ


さぁどうか
私と口付けを

end



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