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☆クラシカ口イドの小説(長編)
C'est moi
館内の匂いも、すっかり春めいた休日の昼下がり


居間でテレビを見ているのは歌苗さん一人で 珍しく 周りには誰も居ない

天気が良いから皆 思い思いに出歩いているのだろう

リストさんやモツさんはアクティブに外出する事が多いが
あのショパンさんですら、外篭りだと言っていた
シューさんも歌苗さんのお使いだろう


私は部屋の片付けを終えて、歌苗さんの存在を確認して 階段を降りようと一歩踏み出しかけた時だった


ベト「小娘、コーヒーが入ったぞ」


二人分のカップを手に、ソファに座るベトさんと歌苗さんを見ると、私の足は固まってしまう


今、下に降りてもな…
せっかく腰を据えたベトさんは 立ち上がり、私の分のコーヒーを淹れようとしてくれるだろう

無骨そうで気難しそうな男性に見えるが、女の子扱いはしてくれる優しい人だと知っている


━━談笑

付けているだけのテレビと、二人の笑顔を見ていると 何だかお邪魔な気がしたので、物音を立てずに 後退ろう

私は踵を返し たどり着いた自室のドアを閉じるまで 下を向いて、表情を隠し続けた


以前のように お菓子でも携えて挨拶すれば良いものを
どうしたんだろう…私



━━━
━━



ベト「…今、歌う小娘の姿が見えた様だが?」


歌苗「え?そうなの?今日は皆出かけてるからな…どうだっけ」


ベト「降りて来れば我が至高のコーヒーくらい淹れてやると言うのに」


歌苗「あ、お部屋のお掃除してるんじゃないかな?そう言ってたような…あとで持って行ってあげたら?」


ベト「ふむ…」



━━━
━━




歌苗さんが見てたのは、少し前の映画かな
話題作だったクセにあまり 頭に残らないストーリーだったな…
エンディングはどうなるんだったっけ…


………思い出せない


とても意地悪なストーリーで 悲しいまま 終わった気がする


あ、主題歌は 思い出した

外国の女性名が歌詞に入っている 耳に残るメロディーで…


『♪♪♪』


あの歌だけは 良いと思ったなぁ

日本のポップスと 海外のポップスって、何かちょっと違うよね


文化と言語が違うだけで とても新鮮…
つい 口づさんでしまうメロディーってドキドキする


『♪♪♪』


━━━


ベト「おい、歌う小娘、居るのか?」


『んへ!?』ビクッ


思い掛けず ベトさんがドアを開く

結構ガチで歌っている時に声をかけられると気恥ずかしいものである
尚且つ さっき歌苗さんと居る時の笑顔を見てしまった故の 気マズさもある


きっと間の抜けた顔をしていたに違い無い


『ははは…ベ、ベトさんじゃないですか』


ベト「さっき顔を見た気がしたが、降りて来なかった様だからな。感謝しろ。我が至高のコーヒーを淹れて来てやったぞ」


『わ、わざわざありがとうございます』



気を使わせたくなかったから降りてかなかったんだけどなぁ
……ほら、優しい
気付いても 見ないフリ、しても良いんだよ?ベトさん



『下に降りて行こうと思ったんですが、やり忘れていたコトがあって…』


ベト「歌っていたかったのか?」


『うっ!』


恥ずかしい!やっぱ聞こえてたぁぁぁぁ


ベト「聞こえたぞ。……何の歌だ?」


『が、外国の歌で…お、ふと思い出しちゃって…』


ベト「ほう…歌ってみろ」


『はぁ!?ここで?アカペラで?』


ベト「歌うとは、そういうことだろう」


『は、は、恥ずかしいんですけど…』


ベト「お前は歌う為に生まれた存在なのだろう?」


『そ、そう言われたら…ま、まぁ…』


ベト「歌え」


『そ、そこじゃ 何ですから部屋に入って下さい』


そう言ってやっと ドアを閉めてくれた

いきなりこんな拙い歌声を響き渡らせて歌苗さんにまで披露したいわけじゃないし、テレビ見てる邪魔もしたくないし…

うーん、何たる無茶振り
私、シューさんみたいにMじゃないからやっぱ恥ずかしいんですけど…

まぁ…歌ってみるけど


『 〜C'est moi …♪♪♪』


ベトさんは静かに 歌を聞いてくれた


━━━


『♪♪………』


ベト「…」


『お、終わりました』


ベト「好ましい歌だった」


『…あ、ありがとうございます』


……いつもは[良い歌]とか言ってくれるんだけどな
[好ましい]って…ベトさんの中ではどう違うんだろ…


ベト「…心の影に何を隠して唄っているのか、その向こう側が知りたくなるな…」ボソッ


『何か言いました?』


ベト「いや…なんでもない」


ベトさんは得てしてブツブツ言う人だ
気にしたら負けだよね


『えっと…歌詞がフランス語だから、ちょっと意味がわからない所もあるんですけどね』


ベト「…そうか、勿体ないな」


『勿体な…?』


ベト「歌詞の意味を解っていれば…もっと感情を込めて歌えるだろう。更に高みへと往けるだろう?」


『ベトさん、フランス語分かるなら 歌詞の訳を教えて下さい』


ベト「は…」


『?』


ベト「こっ!こんな歌詞…!口に出来るか!!フ、フシダラだぞ…歌う小娘!」


『へ?そ、そんなに官能的な歌詞なの?』


ベト「し、知るか!お、俺は下に戻る!コ、コーヒーは冷める前に飲めよ!!」


━バタン━


顔を真っ赤に染めて やや乱暴にドアを閉めて出て行ってしまった彼をポカンと見送り、
頭をぐるぐる回るクエスチョンマークに乱されてる



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あきゅろす。
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