☆クラシカ口イドの小説(長編)
知らないシャンプー(彼目線)
コンコンコン
ドアを三度叩く
いつもの無遠慮な住人達なら 既にこの部屋のドアを開いて入室しているだろう
ショパン「はーい」
僕の声を確認して尚、部屋の主である僕の意思を尊重し 扉が開くのを待っているのは忍路 だけだ
たまに大家さんもこうして気を使ってくれるけど、虫の居どころが悪いとズカズカ入って来るし
『ショパンさんの衣類、洗濯が終わったからお持ちしました』
ほら、 忍路だ
この娘はシンガロイド
音羽博士に望まれた一人…仲間…？
とは言え よく知らない人は怖い
ムジークをセッションした時から、ほんの少しは慣れたと思うんだけど………
やっぱり怖い
ショパン「あ、あ、あり…」
『洗濯物、あんまり溜め込まないようにって、歌苗さんからの通達です』
ショパン「…」
━━パタン、と扉は閉まる
たいして、愛想も有るわけじゃ無いし 少し事務的だ
それくらいが丁度良いのかも知れない
大家さんほど口煩くないし
ベトやモツみたいに騒がしくはしないし
シューみたいに基本的には真面目そうだけどリアクションがうるさくないし
リッちゃんみたいに近すぎる距離感でもない
奏助は…まぁいいや
━━━
━━
━
まだ午前だけど 何だかお腹空いた……
キッチンに何か無かったっけ
なんなら 軽く作ってもいい
珍しくそんな気分になって下に降りて行ったら 忍路が居た
ショパン「…っと」
『ショパンさん』
馴れて来たとは言え……少し気まずい
引きこもりの本能により 僕はやや逃げ腰だ
『…もしかして、お腹空いてません？』
ショパン「え？」
『私もなんですよね、今 ホットケーキを作るところなんですが、ショパンさんの分も作りましょうか？』
ショパン「ぼ、僕は…」
『うん、作っちゃいますね 食品アレルギーは大丈夫ですよね？』
━━で、気まずいまま 断り切れず 二人でホットケーキを食べる事になった
彼女の面倒見が良いのか、僕の弟気質が抜けないのか…なんだろう この流れは
ショパン「み、皆は…」
『ベトさんとシューさんは釣りへ、リストさんはバーゲンへ、モツさんは遊びに行きましたよ』
ショパン「そ、そう…いただきます…」
やっぱり二人きりか…
やはり気まずいな 同じ館に住んでるとは言え…殆ど知らない人だもんな
『そうだ、ハッシーの餌やりは あと一時間後くらいにお願いしますね……それと ショパンさん宛に荷物が届いてます』
ショパン「あ、う、うん」
その状況報告を最後に 会話は止み、静かに食事を続けた
もっとお喋りなのかと思ったけど、必要な会話が終わると静かになった
思っていたより 喋らないんだな
無口なのかな
これなら、人見知り的にも そんなに苦じゃ無い様な…
彼女の顔…は 敢えてあんまり見る事はしないけど、小さな手だな
楽器は扱いにくそう……
食器を扱う様子を横目でそっと確認する
『ふぅ、食べ終わりました』
不意の呟きに 少し肩が震えた
それをやはり 横目で流し彼女は 食器を下げながら口を開く
『食べ終わったら、お皿 下げておいて下さいね』
ショパン「はい…」
そのまま 忍路は何か思い立ったのだろう
部屋を出ようとしたので慌てて声を掛ける
ショパン「あの、コ、コレありがとう！ご、ごちそうさま…です…」
段々小さくなる語尾 だけど精一杯 繋げた言葉に振り返り 忍路は笑った
『お粗末様です』
━━━
ホットケーキを平らげ、普段なら 料理をした 忍路に任せて 放っておくだろう
だけど 僕は珍しく使用した食器を洗ったのだった
きっと さっき
『お粗末様です』
と 振り返った 忍路の笑顔を反芻したから
━━━━
━━━
━━
夜
━
コンコンコン
ショパン「はい…」ガチャ
『お風呂、お先に頂きました 次、どうぞ』
ショパン「あ…どうも…」
『あと、お昼はホットケーキのお皿を片付けて下さってありがとうございました』
ショパン「い、いや 僕のほうこそ…ご馳走になったから あれくらいは…」
そう告げると 彼女は ニッコリと笑って去って行った
あんな…
あんな顔も出来るのか…
あどけない［只の笑顔］を見て
またもや ちょっとした意外性に しばし立ち尽くす
そうだ お風呂に入らなきゃ
━━
浴室
━━
この浴室に置いてあるものとは違うシャンプーの匂いがする
そうか、 忍路だ
彼女の後に入ったのは今日が初めてだから…
自分専用のバスグッズを持っているのか
案外神経質なのか？
まぁ そうだと言われたらそんな感じはする
ショパン「ん…？」
シャワーを浴びていると 見慣れない小さなボトルが置いてある
大家さんが置いたのか？
その時
ドアを三度 ノックする音がした
『ショパンさーん、入ってますか？』
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