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☆クラシカ口イドの小説(長編)
眼鏡が暴走(眼鏡があいつらとダブルで、の続き)
美術館や食事をした あの日
彼にはとても世話になった事の礼を言いたかった

だから こうして アルケー社に来て 受付に話をして面会させて貰った


蘰を被った彼は 休日の雰囲気とはまた変わって見えたが、毅然とした姿勢はそのままで 威厳があった


私は 大した言葉を言えるでもない
大家殿と作った菓子を持っては来たものの、これで対価になるとは思ってなどいない。


シュー「何か仕事はありませんか?」


バッハ「…」


彼に世話になった分を せめて働きで返そうと思ったのだ

こんな大きな会社の頂点に立つ彼には、私の力など ちっぽけで門前払いを受ける事は必至だろう

それでも、だが それでも
労力、または私の 持てる能力を使って お礼がしたかったのだ


この熱意や気持ちが通じたのか、彼は 私の演奏を聞きたいと言った

私はそれに応え、直ぐ様ピアノを奏でる

彼はただ静かに聞いていた

目を瞑り、ただ 静かに。


演奏が終わると 包みを渡された


シュー「これは…お金……受け取れません!」


バッハ「…素晴らしい演奏だったのだ。その対価だ」


シュー「私はお金が欲しいから仕事はありませんかと 聞いたんじゃない、
貴方にお礼がしたいから…力になれる事はないかと聞いたつもりだったのです」


バッハ「君の音楽は素晴らしい。その価値がある
それに とても、貴重な機会だろう 君の音楽を直接聞けるということは」


シュー「私の演奏で良ければ、バッハ殿が求めた時にいつでも演奏して差し上げます
ですから こんな、物乞いに施す様に 大金を容易く下さらなくても良いのです」


バッハ「…物乞いだ などとは思っていない
君は……兄弟だ」


シュー「!!」


バッハ「…どうか、納めてくれ。私もまた、君に礼を言わねばならんのだ」


━━━━━なんと かぶいた男か
これは………忍路殿が心を寄せるだけの事は有る……


バッハ「それに その包みの中身は、君だけの為に使う物ではないだろう」


シュー「………ああ、大家殿への……」


バッハ「まぁそれも……だがたまには……そうだな、忍路と お茶でもして来るべきだ」


シュー「忍路殿?何故………彼女は貴方の事を慕っているのでは……」


バッハ「…??」


シュー「何ですか?」


バッハ「…!?」


シュー「な、何ですか その[コイツ何言ってるんだ]みたいな目は?」


バッハ「…嘘だろう…彼女の熱烈な視線に気付いてはいないのか…それどころか…」ぶつぶつ


シュー「バッハ殿?」


バッハ「…」


シュー「バッハ殿?」


バッハ「…いいか、シューベルト。忍路は とても良い心を持った女性だ。賢く、気配りが出来る。
それ故に疲れ易いように思う…なので、たまには君が誘ってやってくれ」

シュー「……??」


そう言われ、更に懐に お札をねじ込まれてしまったが………

結局断り切れず、私は彼の申し出を受け入れた。

2つの約束を条件に。

1つは、これからも たまに彼の所に出向き、演奏、または音楽の話をする事


バッハ「たまには話相手になってくれると気分転換になるんだ」


そう言った彼の口元は 何処と無く 優しさを含んでいるように感じられた…


もう1つは、忍路殿をサポートする事


しかし 何故忍路殿なのだろう?
シンガロイドだからだろうか?

うーむ
天才の言う事は深くはわからない…
間違った事は言っていないので頷いた訳だが。


早々に 私は忍路殿をお茶に誘う
そして 駅前のカフェに来たのだった


━━━━
━━━
━━


シュー「と、いうような……いやぁバッハ殿は思慮深いですね」


『私が気遣いし過ぎて疲れないかって?全然そんな事無いですよ!もー、バッハさんはオーバーなんだから』


シュー「彼は、色んな意味で 長男ですね…」


『…ええ。でも人の事を気遣い過ぎなのはバッハさんの方だと思います
そのうち、バッハさんが疲れて倒れちゃわないかが心配です』


シュー「そうですね…忍路殿が側で支えになって寄り添うというのは 如何でしょうか?」


『え、何それ……バッハさんにはチャイコちゃんやバダちゃんも居るじゃない』


シュー「……いや、しかし…」


『…??…てゆーか、何で私??』


シュー「いえ…忍路殿はバッハ殿に心を寄せておいでなのかと……」


『……心を寄せて…って、もしかして…それ、私がバッハさんの事を好きだって事?』


シュー「ええ」


『んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁ!!』ガターン


シュー「ひえっ」


『私がバッハさんの事 好きだったら、どうしてチャイコちゃんとダブルデートに行った訳!!??チャイコちゃんの恋を応援してるポジションだっつーの!』


シュー「は、はぁ」


『仮に私がバッハさんの事が好きだったら、あんな場所に とてもじゃないけど行けないよ!!
チャイコちゃんと バッハさんの取り合いになるんだよ?ムリムリ!!
勝ち目無いし!!チャイコちゃん、アイドルだし 可愛いし!!
私が男だったらチャイコちゃんと付き合うし』


シュー「そんな事はありません、忍路殿も充分に魅力的です…」


『クチではそんな事言ってても、いざとなると 男性ならチャイコちゃんを選ぶね!!シューさんだって…』


シュー「わ、私なら忍路殿の方が魅力的だと思います!!」


『いいのいいの!!そんな風に気を使わないで!同情なんてミジメだからヤダし』


シュー「同情ではありません!本心です!」


『そもそもチャイコちゃんと私じゃ比べ物になんないってば!』


シュー「チャイコ殿よりも忍路殿の方が可愛らしく思います!」


『チャイコちゃんのほうが可愛い!』


シュー「忍路殿の方が可愛いです!」


『チャイコちゃんのほうがファンだって居るし!!それだけ世の中の男性を魅了してるんだってば』


シュー「どれだけ世の男性を魅了しようが、私には貴方の方が魅力的なんです!」


『…』ハァハァ


シュー「…」ゼェゼェ


リスト「…………あんた達、恥ずかしくないの?」


『リストさん!?』


シュー「リスト殿!?」


リスト「久しぶりにこのカフェに来てみれば………なんなのあんた達。痴話喧嘩?」


『ちちちちわげんか…!?』


シュー「ちちち違います!!そんなんじゃなくて!!」


リスト「あらそう?何よ、魅力的とか可愛いとか…ちょっとドキドキしちゃうわね」


そう言われて忍路殿の方を見やると


『…』


シュー「…」


目と目が合ってしまった瞬間
稲妻に打たれたかの様な胸のざわめきを受けた

きっと、それは
二人共


『!!』「!!」


途端に互いに互いの顔色に気付き、更に頬が染まり 顔を背けて弁解に転じる


『ち、違うの リストさん!!シューさんがヘンな事を言うから…』あたふた


シュー「そ、そうです!いや でも忍路殿はバッハ殿に想いを寄せていると思って…」


リスト「はぁ?忍路ちゃんが、バッハに想いを寄せてる?」


『って言って譲らないんです、シューさんてば』


リスト「あるわけ無いじゃない」


シュー「えええええっっ!?ですが…」


リスト「……忍路ちゃんにバッハは似合わないわよ」


『そ、そうそう!!あーもー、シューさんがトンチンカンな事を言うから疲れちゃった』


シュー「じゃ、じゃあ忍路殿は、チャイコ殿の恋を応援するために、あの会合に参加したのですか?」


『ま、まぁね』


リスト「あら?会合って何よ、何か面白い話??」


『た、大した話ではないんですけどぉ…』


リスト「あら水臭い。聞かせてよぉ」


シュー「それがですねぇ」


ギャーギャー
ワイワイ


━━━
━━



こうして、リスト殿の参入により 忍路殿を労うお茶会は 大変賑やかな物に変わり果ててしまった

騒ぎ過ぎて カフェの店員さんから注意されてしまったことは反省せねばなるまい


本当に、忍路殿とお茶をしたまでは良かったのだが リスト殿と鉢合わせした辺りからおかしな事になったような…

いや、まぁ元はと言えば 私が口を滑らせたのがいけなかったのだろう…

単刀直入に バッハ殿に心を寄せているだの……
嗚呼、私はどうかしていた

なんと軽率な…
悔やまれる…

忍路殿もあんなに憤慨して


憤慨………あんなに早口で、慌て怒る彼女は初めてだな


珍しく 敬語ではなくなっていたし
それも新鮮だった

何故あのように……
いや 私が悪いのだ
彼女は嫌だったのだろう
だから 怒ったのだ

うむ


日本人は想いを内に秘め、表に出さない人が多いと聞いた事もある


きっと忍路殿はそのタイプ……

彼女達からすれば、私達は比較的オープンに表現してしまう性質らしいので 気をつけねばなるまい



私も 些か むきになってしまった…
反省せねばなるまい…
いやしかし……


忍路殿は魅力的だ

それは嘘ではない
真実。
素直な意見を述べたまで。


そうとも


何度も私自身に問いかけた。

チャイコ殿と忍路殿なら?
リスト殿と忍路殿なら?
大家殿と忍路殿なら?


うむ
誰と比べても忍路殿は魅力的ではないか


彼女は自分に自信が無さ過ぎるのではないだろうか

どうにか 彼女に自信を持たせてあげる事は出来ないだろうか………


━━━
━━



『へっくしゅ!!』


『何だろう ちょっと寒気がする…風邪だったらヤダなぁ』ゾクッ


end

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