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☆クラシカ口イドの小説(短編)
キスしないと出られない部屋/バッハ
━キスしないと出られない部屋━



バッハ「こ…これは、一体…??」


『…何処でしょう…誰かのムジークでしょうか…』


バッハ「この部屋から脱出できる条件がコレか…」


彼は、ロックが掛かったドアに[キスしないと出られない部屋]と書かれた文字を、指差して 複雑な表情を浮かべた。



『えっと…そうみたい…』


バッハ「」


『』



言葉が途切れてしまった。
心無しか、バッハさん 気まずそう??
いや そりゃそうだよね
突然そんな事を言われたら 誰だってそんな顔になるかも


━━━
━━



始めは気まずい空気を変える為に、世間話から始まった。
それから 何時間経ったか判らないが 楽しく広がりを見せた内容が嬉しくて、私は沢山話をした。
バッハさんも笑顔を見せてくれたので 尚のこと、言葉が出てくる。


『それでリストさんたら…』
バッハ「フフ…それは頼もしいな」


そして、バッハさんのムジークで、何度も歌った。
バッハさんは音階のグラデーションを、そのタクト
で 時に厳かに、時に軽快に付けていく。


バッハ「♪」


『♪♪♪』



空気を翔る音楽が止まない。
こんなに一緒に時間を過ごせるなんて、初めてだった


バッハ「アポ無しでキミとこんな時間が過ごせるなんて 夢みたいだ」


『私もですよ!ホントに…』


バッハ「…こんなイレギュラーなら大歓迎だ」


気障なセリフもバッハさんが言うと 嫌味が無くて
カッコいいな…

ドキドキして 上手に返答出来ない
きっと私の笑顔も 照れや困惑でキレイなんかじゃないハズだ



バッハ「…楽しい時間だった 最高の息抜きになる、今日はありがとう」


『そんな、私の方こそ 楽しかったです!』


バッハ「報酬は後で…」


『や、辞めて下さい!そんなつもりで貴方の歌を歌ったんじゃない…確かに私は裕福では無いですけど』


バッハ「済まない、気を悪くしないでくれ…」


私の頬を手で包み、眸を逸らさずに 柔らかなテノールが続けた


バッハ「キミに何かをしたいのだ…堪らなく。
しかし、どうしたら…キミが喜んでくれるか、解らないんだ」


『…バッハさん…』


バッハ「…済まない」



バッハさんの手が 頬から離れようとする


余りにも 切ない目をしていたからか、気が付けば
私はその手を抱き締めていた


バッハ「!」


『わ、私も バッハさんには笑ってて欲しいです
悲しい時は支えたいし、
差し出がましい事を言ってるのは承知ですが、貴方の心を…
守りたいんです…』


バッハ「田歌…」


『だから、どうか 悲しそうな目を…』



それを、言い終わる前に 私は彼の腕の中に居た

私が抱き締めた彼の手はそのままに、大きな身体に包まれて ただただ暖かい


『バッハさ……』


彼の名を呟くと
躊躇したように彼はうつ向いた


バッハ「もう…行かねば」


『…』


バッハ「では、また…私を癒しておくれ、私の歌姫」


そう、照れたように笑って、私の手の甲にキスをした


扉は開いて、彼は 振り返りもせずに行ってしまったけれど


どうしよう
耳から消えない
去り際の低い囁き…
聞き間違いでは、ないよね?



━━愛しい田歌━━



end



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あきゅろす。
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