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ゾンゼロ長編
001


『……』

浄阿弥がよみがえってからというもの、栄華は脱け殻のようだった。
一人でいる時も、仕事の時も。

「福寿先生、最近おつかれなんですかねぇ?」
「悩み事でもあるのかな」
「私に手伝えることは言って下されば…」


いつもにこやかに振舞っていたせいで普段の印象からはかけはなれた自分の様子が、どうやら学校の至るところでうわさになっているらしい。
そしてそれはただ浮き足立ったものではなく、態度にこそ出さなくても、みんなそれぞれが心から心配してくれていることも伝わってくる。

「先生最近元気ないよね」
「具合悪いのかな」
「まさか…恋の病か?そうなのか!?俺達の先生がああ!!」


恋の…病。
あながちはずれてはいない。ただ、浄阿弥とはロマンティックで色めいた関係ではない。
もっと、人間くさい因縁なのだ。

廊下を歩く足も重い。
生徒に心配をかけたり、ほかの先生方に詮索をさせてしまわないようにとは思っても、先日の事件で頭がいっぱいだ。
今までの長い人生、こんなにも一つの事に心奪われた事はなかった。


浄阿弥が戻ってきたら、ダメなんだ。
栄華が、いや花梨が、何をしでかすか…


自分のことながら、自分が一番分からない。
多くの不安は無知から生まれるものだが、それが己の事となると、冷静に向き合うことができずそこから抜け出せなくなってしまう。

『あいつが現れたら…ウチもじっとしてはおられんようになるな』


普段気の強い栄華でも、この命題には到底一人で立ち向かえそうにない。
辛くて、逃げたくて心が折れてしまいそうだ。

こんなとき、相談役に足る人物は…ダメだ、何故私の回りにはアホしかいないんだ、と笑いすらこぼれ、軽く絶望しながら今日の仕事を終えた。





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あきゅろす。
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