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始まりの、

―どうせ、俺なんか。

自分の気持ちに気が付いてから、この言葉が頻繁に頭の中をループするようになった。

―きっとこいつは、普通に異性が好きなんだろう。

机に頬杖をつき背中を眺めれば、そんな言葉が頭の中を過るようになった。

―…それでも。



***





同じ部活、同じクラス。
この間の席替えで、前後になった。
窓際のその席はグラウンドを見渡すのに最適で、授業中もつい外を見てしまいそうになる。
その所為で先生に叱られたり、突然問題を問われたりしているクラスメイトを何度も見てきた。
だが今回は違う、と御幸は思った。
目の前に、倉持が居る。その事実が、御幸の意識を外から中へと引っ張る。
授業を聞いているフリをして開いているのはスコアブック。次の対戦相手の情報を頭の中に入れようとするも、つい目線は前へと行ってしまう。
倉持の背中を見つめながら御幸は考える。
いつから、こんなに気になる存在になってしまったのだろうと。
だが結論など出る訳もなく、考えるのを止めると視線を黒板へと移動させる。
先生の話は、全く頭に入ってこなかった。
それは倉持も同じだった。後ろの席の御幸が気になって仕方がなかった。
きっと御幸は今頃、スコアブックを見て対策を練っているに違いない。それなのに、自分は御幸自身の事で頭がいっぱいになっている。
その事実に倉持は目を背けたくなる。
恋がしてみたい、と思った。けれど、まさかその相手が、あの御幸になるとは倉持自身も予想もしていなかった事だった。

「…御幸」

授業が終わり、後ろを振り向けば机の上に突っ伏している御幸が目に入り、倉持は何か話題を探すように口を開いた。

「…スコアブック、見てたんだろ。どうだった?」
「………」

返事はない。よくよく見てみると、完全に眠りについているようだ。
気持ち良さそうに寝ている御幸を眺めていれば、ふと髪に触れたくなる。
倉持はそっと手を伸ばす。が、その手は空を切る。
代わりにと拳を作れば御幸の頭目掛けて振り下ろした。

「…〜〜っ!」
「いつまで寝てんだよ、次移動だろ」
「…お前、力加減ってものをだな…」
「あ?早くしねぇと追いてくぞ」
「ちょ、待てって」

倉持の言葉に御幸は慌てて机の上を片付け次の授業の教科書やノートを取り出す。その上にスコアブックを重ね、席を立てば教室を出て行こうとする倉持の後を追いかける。
その時、倉持の服の裾を掴んで引っ張りたくなる衝動に駆られ手を伸ばす。
しかし御幸はその手を引っ込めれば代わりに足で倉持を後ろから軽く蹴る。
僅かによろめく倉持を横目に、御幸は満足げな表情を浮かべた。

「…っ、何すんだよ?」
「さっきの仕返し」
「……」

チッ、と軽く舌打ちをする倉持を見遣り、御幸は笑う。


―この関係が続けば、良い。
―でも、あわよくば。




二人が一歩近付くのは、もう少し先。





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