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誤魔化さないで

―でも俺、結構倉持の事好きだぜ?

まだ生徒が残る放課後の教室、周りは各々の会話でガヤガヤと騒がしい。
だが、倉持は周りのそんな声など耳に入らず、時が止まったかのように無音に感じていた。
何気ない会話をしていた。授業の話、野球の話、チームメイトの話。
そんな中、突然そんな事を言われれば頭が真っ白にフリーズしてしまうのは当然と言えば当然だろう。
そんな様子の倉持に対して、御幸はクスクスと笑い出した。

「…いきなり何、んな事言い出して」
「いや?何となく言ってみただけ」
「何となくってお前…」

ようやく頭が動き出し口を開けば、返ってくるのは予想外の言葉で、そんな理由かよ、と心の中で呟きつつ脱力感から溜息をつく。
行くか、と立ち上がる御幸を一瞥して、倉持は思う。
御幸の、この掴み所の無い部分が気に入らないと。
何を言ってもへらりと笑ってかわされ、決して本心を言おうとしない。挙げ句の果てには、堂々と誤魔化すような素振りを見せる。
その本心か冗談かの区別がつかず困惑するのはいつも倉持の方で、結局振り回されてばかりなのだ。
今回も、そうだった。
いきなり真剣な表情で告げられ、胸がドキリとした。
それは心の何処かで倉持も思っていた事で、さらりと言う御幸に腹が立ったのだ。
先を行く御幸の背中を見つめながら、倉持は心の中のモヤモヤをどう処理すれば良いのか分からないでいた。
それは夜になっても同じで、ベッドに横になって寝ようとするも余計に考えてしまって眠る事が出来なかった。
仕方なく起き上がり、静かに部屋を出れば何か飲もうと自動販売機へと足を向ける。
近くに設置してあるベンチに、人影が見える。
誰だろうと近付いてみれば、そこには今会いたくない人物ナンバーワンの御幸が座っていた。

「…よう」
「……おう」

何て不運な日だ、と倉持は心の中で舌打ちをしつつ適当に飲み物を買う。
その侭去る訳にもいかず、御幸の隣に座ればプルタブを開け口に運ぶ。
長い沈黙が二人を包む。倉持は居心地の悪さを感じ何か言おうと口を開くも、特に良い話題も出てこず、口を噤んだ。
そしてやってくるのは、昼間に感じたモヤモヤ感。
自分の気持ちには気が付いている。見て見ぬ振りをしていた。
相手が男だから、クラスメイトだから、同じチームの仲間だから。
色々理由をつけて、避けていた。

―あぁ、そうか。
と倉持は思う。
誤魔化していたのは自分もか。
飲み干した缶を握り締め、御幸の方を見る。
それに気付いた御幸が首を傾げ見返してくる。

「…ん?」
「御幸、俺はもう逃げねぇ。だからお前も逃げんな、俺から。向き合え」
「…倉持?」
「俺は、お前が好きだよ」
「…っ」

御幸の目が大きく見開かれ、動揺からか瞳が揺れる。
それを真っ直ぐに見つめれば、降参とばかりに笑みを浮かべた。
それはいつもの誤魔化すような笑みではなく、重荷が取れたかのようなスッキリとした笑みだった。

「…本当、敵わねぇよ、倉持には」
「何処がだよ」
「はっは、自覚なしかよ。…そういう所だよ」

そう言いながら、御幸は倉持の胸元を握り自分の方へ引き寄せれば静かに唇を重ねた。


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