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How came it to be so?...1

「…ん…。……ん…?」

目が覚めてまず感じたのは身体の怠さ。
そして次に思ったのは、ここが何処だという事。
まず、自分の家ではない。
序でに言うと、昨日の記憶が飛んでいる。

「…御幸?目、覚めたか?」

背後から聞こえてくる声に大袈裟な位ビクつき、聞いた事のある声に恐る恐る振り返れば、そこには昨日一緒に飲んでいた同僚の倉持がいた。
シャワーを浴びてきたのだろう、服装は若干はだけて髪は未だ湿っている。
口を開き質問をしようとした時、すかさず倉持が被せてきた。

「昨日はサンキュ、楽しかった」
「え、っと…」
「また、よろしくな?」
「う、うん?そ、そうだな」

ヤバイ、ヤバイぞ。本当に何も思い出せない。
どれだけ頭をフル回転させても昨日目の前のこの男と一緒に飲んでからの記憶がスッポリと抜け落ちていて、俺は曖昧な返事しか出来なかった。
困っている俺に気付いたのか、倉持は小さく笑みを零すと先程まで自分が居たであろう浴室を指差し問い掛ける。

「…シャワー、使えよ。タオルも使っていいから」
「…っあ、じゃあ…悪いな」

促される侭にベッドから下りれば浴室へ向かう。
半分開けられたカッターシャツの釦を外し脱ぎ去り、既にベルトとファスナーが開いているズボンを下ろす。

「……ん?」

既に、外されている。上も、下も。寝呆けていた頭が段々と覚めていくのが分かる。
覚めると言うより、冷めていく。
よぎるのは最悪なシチュエーションで、下着を急いで脱ぐと扉を開けて中へ入る。
ほんのり熱気が残る浴室に、俺の頭の中の妄想は酷さを増していく。

(も、もしかしてもしかすると…俺、倉持と……)

頭からシャワーを浴びながらそんな事を考えてしまう。
いやいや有り得ない、男同志だぞ。
首を左右に振り自分の考えを否定し、更に考えたくなくてシャワーの温かさに集中する事にした。
昨日の汗を洗い流せばシャワーを止め外に出る。
入る時には無かったタオルが目の前に置かれていて、心の中で感謝しつつそれを掴んで広げ体の水分を拭き取っていく。
シャワーのお蔭で頭はスッキリしたものの、やはり昨日の記憶は途中から飛んでいて思い出す事が出来ない。
先程脱いだスーツを再び着込みタオルを洗濯機の中へ放り投げれば部屋へと戻る。
煙草を口に咥えテレビを見ている倉持がこちらを捉えると俺は反射的に軽く頭を下げた。

「…あの、サンキュ」
「そんなご丁寧に。…あ、そうだ御幸、この後の予定は?暇?」
「予定は特にない…けど、着替えに戻りたい」
「あぁ成程ね。…んじゃ昼飯とか一緒に行こうぜ。俺迎えに行くし」

今の自分の状況ではまともに食べられる気がしなくて、断ろうと口を開くもその威圧的な視線に圧倒され再び口を噤み、頷く。
それを確認すれば早速と煙草の火を消しながら立ち上がる倉持を目で追いつつ、ハンガーにかけてある自分のコートを手に取り羽織れば出て行こうとする後を追って部屋から出る。
倉持の家と俺の家は然程遠くない位置にあり、数分で着いてしまう。
ポケットから鍵を出し開錠して中に入れば脱力感。
深い溜息を吐きながらその場に座り込み頭を掻く。
どうしたものかと悩むも解決策など浮かぶ訳がなく、俺は考える事を放棄し立ち上がれば着替える為にタンスから適当に服を出す。
着ていたスーツをハンガーにかけ、シャツを放り投げれば鏡を見て軽く髪型を整える。
そうして部屋を出れば目の前に止まっている車、その中に居る倉持の姿を確認すれば助手席へと乗り込んだ。

「何か時間かかってねぇ?」
「…気の所為だろ」
「まぁいいけど。何食いたい?」
「何処でも…軽く、でいい」

了解、と車を走らせる倉持を一瞥した後、俺は反対側を向き窓から流れ行く景色を眺めた。
稀に光の反射で映し出される倉持の横顔に、意識を持っていかれながら。



***



それから、特に変わった出来事は起きなかった。
同僚と言えど部署は違う上に仕事上もあまり関わらない、つまり社内で会話をする機会など自分で作らなければならなかったから。
ただ、俺の頭の中に居座り続けるあいつの存在は日に日に増していって、気が付いた時には倉持がいる部署へと自然と足が向かっていた。

「…倉持」
「御幸、珍しいな。どうした?」
「ちょっと、話がある」

倉持が所属している部署の室内に足を進め、辺りを見回し本人を見付ければ近付き話し掛ける。
そして人気の無い場所に連れて行くと、倉持は怪訝そうに俺を見た。

「…んだよ、こんな場所に連れてきて」
「あの、さ…こないだの、事なんだけど」
「こないだ?…あぁ、一緒に飲んだ時の事か?」
「そう、それ」
それがどうかしたのか、とでも言いたそうな表情を浮かべる倉持に俺は構わず続ける。
「…何も、なかった、よな?」
「は?…何が?」
「だからっ、やましい事は何もなかったって聞いてんだよっ」

思わず声を荒げる俺に、倉持は驚いたのか目を丸くさせた。
しかしそれも一瞬の事で、プッと吹き出すと腹を抱えて笑い出す。
その様子に、苛立ちを感じずにはいられなかった。

「お前何笑ってんだ、重大な事だぞ!?」
「や、うん…確かに息苦しそうにしてたから外したけどよ、まさかそんな誤解生むとは思わなかったぜ」
「当たり前だろ!その所為でお前の事ばっかり…!」
「へぇ?…俺の事ばかり考えてた?ずっと?」
「……っ」

しまった、と思った時には既に遅く、倉持の笑みが深まるのが分かった。
余計な事まで口を滑らせてしまった自分をこんなに恨んだ事はない。
じりじりと近付いてくる倉持に思わず後退ると、徐に肩を掴まれ引き寄せられる。
耳元で倉持の、一オクターブ下がった声が響く。

「…なら責任、取ってやるよ」
「せ、責任って別に…」
「今日仕事終わったら俺の部署に来い。…逃げんじゃねぇぞ?」

それだけ言い放つと、倉持はくるりと向きを変え去って行く。
その背中を見つめながら、俺は暫く立ち尽くしていた。




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社会人×社会人美味い!
最初は取引先っていう設定だったのを同僚に書き直しました…(笑)
続きがあるかは………分かりません。




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