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ねぇ、気付いて

最近、何かがおかしい気がする。
沢村は部屋で一人、胡座をかいて首を捻っていた。

「むむむ…」

唸りながら考えるも結論が出る訳でもなく、結局考えるのを止める事になる。
意を決して外へと出ればまず目に 入るのはその悩みの種になっている人物。
理由は分からない、ただ気が付くと目で追っている。
同学年のチームメイトと話し、笑っている姿を遠目で見つめていればそれに気付いた本人がこちらへとやって来て、思わず肩をビクリと震わせた。

「沢村くーん?そんな所でボーッと突っ立ってどうしたー?」
「な、何でもないっ」

視線を逸らすも、へらりと笑うのを横目で見る。
部員の中では比較的整っている方の顔、眼鏡の奥から垣間見る瞳、そして鋭い視線。
いつの間にか、沢村は御幸の全てが気になって仕方がなかった。

「沢村ー?」
「え?あ、何すか!?」
「お前、ボーッとし過ぎ。何考えてんの?」
「べ、別に!?」
「ふーん…?」

ま、良いかという呟きと共に頭を撫でられる。
最初は若干ではあるが抵抗があったその行為も、最近では慣れてきたのか普通だと感じるようになってきた。
特別疑問も持たなかった為か、心地良く感じるようになってきた為か、この合間だけは途端に大人しくなる。
御幸はその様子を眺め、小さく笑みを零した。
それに気付いた沢村は怪訝な視線を向ければぐりぐりと押さえつけられる。

「あだだだっ!」
「…ん、よし。早く寝ろよー」
「…それはこっちの台詞!」

何がよし、だと心の中で毒づきながら唇を尖らせ、頭を摩る。
そうして去って行く御幸の背中を見つめ、やはりモヤモヤとするこの感情を、沢村は言葉で表せずにいた。


***


「…ね、眠い……」

あの後部屋へと戻り真っ直ぐにベッドへ入るも結局考えてしまうのは御幸の事で、なかなか寝付く事が出来なかった。
重い瞼をなんとか持ち上げるも、ついうとうととしてしまう。

「英純くん、大丈夫?」
「ん?あー、平気平気」

心配そうにこちらを見てくる春市に見栄を張って笑顔で答える。
しかし連日続いた寝不足は体に堪えていて、判断力も鈍っていた。
な自分の方へと飛んでくるボール、それを避ける事さえも。
危ない、と春市が叫ぶのも遅く、ボールは沢村の脇腹に直撃し、地面へと落ちる。
幸いな事に急所は外れたものの、意識は朦朧としてきており、その場に膝をつけば蹲ってしまう。

「…っ、おい!」

頭上から降ってくる御幸の声に、沢村は何の反応も出来ない侭でいた。
不意に腕を掴まれ立たさ担がれる。脇腹に痛みが走った。
保健室までの距離は遠く、とりあえずと近くの休める場所に移動すれば、沢村は大人しく横になった。

「…バカだろ」
「……そうっスね」

へらりと笑う沢村の額を軽く小突く。
練習着を捲り、脇腹の様子を診ながら御幸は心配そうな視線を注いだ。
若干鬱血はしているもののそこまで重傷という訳でもなく、胸を撫で下ろせば安堵の息を吐き出した。

「…み、ゆき…?」
「良いから、休んでろ」
「…はい」

何か言いたげな沢村の言葉を遮り僅かに被せて言い放てば沢村は静かに瞳を閉じた。
それを見届ければ手を伸ばし髪に触れる。
くしゃりと撫でた後、御幸は笑みを零した。
意識が無い事を確認し、小さく呟く。

「…、…俺の事気にし過ぎだっつーの。バレバレ。…そこが可愛いんだけど、な」

―だから、まだ言ってやらねぇ。


早く気付け、という願いを込めつつ、顔を近付けると額に小さく口付けた。


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フォロワーさんが誕生日ということでリクエストにお応えして初御沢!




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