[携帯モード] [URL送信]
冬の温かさ

東京といえど、冬はやはり寒い。
音を立てて吹き抜ける北風が肌にしみり、御幸はその冷たさに体を震わせた。
自動販売機で温かい飲み物を二つ購入すれば急ぎ足で部屋へと戻る。
ジャンケンに負けた己を恨みつつドアを開け中へと入り、コントローラーを片手にテレビを真っ直ぐ見つめている倉持の背中に声を掛けた。

「…買ってきたけど」
「おう、さんきゅ」
「ここ置いとくから」
「…おう」

邪魔にならないように脇の位置へと缶を置けばベッドの端へと凭れ読みかけだった雑誌のページを捲る。
会話はほとんどない。それでも御幸はこの時間が好きだった。
心地の好い沈黙、響くのはテレビから出る音と、自分のページを捲る音だけ。
そんな静けさを打ち破ったのは、倉持の叫び声だった。

「…だー!もう止めだ止めっ!」

何事かと目線を上げテレビの方へ向ければそこには"ゲームオーバー"の文字。
妙に納得してしまい、思わず笑みを零した。

「…何?クリア出来ない感じ?」
「うっせ」

図星を突かれ、ばつが悪そうな表情を浮かべながらゲーム機の電源を切りテレビを消す。
その足は自然と御幸の隣へと向かい、腰を下ろせば先程まで御幸が見ていた雑誌を覗き込んだ。
しかし直ぐつまらなさそうに視線を戻す。

「御幸」
「ん?」
「出掛けようぜ」
「やだ」
「何でだよ」
「寒いじゃん」

先程の冷たさを思い出し、御幸は首を左右に振る。
その子供のような返事に、倉持は眉を寄せ怪訝な表情を浮かべた。
しかも目線は雑誌に釘付けで、こちらを見ようともしないその態度が余計に頭にきて、思わず御幸の見ていた雑誌を奪い放り投げた。
そして立ち上がればハンガーに掛けてあったコートを手に取り、御幸の腕を掴んで立ち上がらせればそれを羽織らせ半ば強引に引っ張っていく。

「おら、行くぞ」
「ちょ、俺は嫌だって…っ」
「ごちゃごちゃうるせぇ」

思わずよろめく御幸を横目に、倉持はドアを開け外へと進む。
そんな倉持に対して、御幸は仕方ないと諦め心の中で小さく溜息を吐けば、渋々倉持について外に出る。
外の気温は矢張り低く、風が吹く度に寒さで体が震えた。
恨めしげな視線を倉持に送るも自然と伸びた手は倉持の手を掴み、驚く表情を見遣ればクッと笑みを零した。

「…はっ、変な顔」
「余計なお世話だ、バカ」

口では悪態をつくもその手はきちんと握り返してきて、温かさに思わず表情が緩む。
自身が吐き出した白い息を見つめ、倉持と過ごすこの時間が大切であると実感する。

「…で?何処行くの?」
「コンビニ」
「おでん食いてぇかも」
「御幸の奢りな」
「は?何でよ」
「さっきジャンケン負けただろ」
「それ続行する訳!?」

他愛のない会話に二人同時に吹き出せば、足は寮の近くのコンビニへと向かう。
買って帰ってきたおでんを沢村達に見つかり取られるのは、また別の話。


**********

SSにも程があるでしょうよ…。
真冬にイチャイチャ!




あきゅろす。
無料HPエムペ!