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掴めない感情

「御幸ー」


なかなか起きてこない御幸を起こして来い。

そう結城に言われ渋々御幸の部屋へと足を運びドアをノックして呼び掛けてみる。

勿論と言うべきか、返事は無い。

ノブを回せば鍵は開いていて、音を立てないようにゆっくりとした動作でドアを開け中の様子を伺う。

二段になっているベッドの、下の段に御幸は居た。

動く気配は無く、掛け布団が僅かに上下している。


「…熟睡、かよ」


大袈裟に溜息を吐き、靴を脱げばベッドへと足を進める。

端に腰を下ろせば、ベッドの軋む音が静かな部屋に響いた。

中を覗き込めば、すやすやと寝息を立てている御幸の姿が目に入る。

手を伸ばし髪に触れてみる。

それは柔らかくて、さらりと指の間を通り抜けていく。


「…おい、起きろ。何時だと思ってんだよ」

「ん……」


その声に反応したのか、御幸の瞳が薄く開かれる。

視界に入る倉持の姿に、笑みを浮かべた。

倉持のシャツの裾を引っ張ってみれば、倉持の怪訝そうな表情が目に入った。


「…んだよ?」

「なぁ、倉持…」


上体を起こし身を寄せる。

近付く顔、そして唇に倉持は拒む事なくむしろそれを受け入れる。

ー寝起きの御幸は、頭のネジが少し外れている、気がする。

そんな事を考えながら倉持は瞳を伏せた。


「…ン」

「…口、開けろ」

「…は」


絡まる舌、耳に入る水音に脳内が支配されていく。

その口付けは、長いようでとても短かった。


***


「…すいません、でした。ちょっと昨日、寝るの遅くて」


へらりとした笑みを浮かべ、結城に言い訳をする御幸を横目に倉持は準備運動を済ませバットを持ちバッティングに向かう。

自分の中のモヤモヤとしたこの気持ちをぶつけるかのように振っていく。

息が切れ、休憩がてらに水道へと足を運ぶ途中、不意に肩を叩かれ、振り返れば先程まで言い訳を並べていた張本人が居た。


「…あ?」

「今日、午後はオフだよな」

「そうだったな」

「…付き合えよ、部屋、開けとくからさ」

「……」


妖艶な笑みを浮かべながら言い放つ御幸に、倉持は心の中で舌打ちをした。

無言を肯定と取ったのか、御幸は数回肩を叩いて去って行く。

その背中を見つめながら、言葉に出来ない感情が膨れ上がっていくのを感じた。

ー嗚呼、嵌っていく。そして、抜け出せない。


「…くそっ」


それでも、御幸の居る部屋へと、今日も足を運ぶ。






あきゅろす。
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