DREAM 台風は熱帯低気圧に変わりました。(メイメイ) 飛び散る汗 飛び交う歓声 宙を舞うタライ 泥酔者、ご乱心、だ。 おっと、タライって言っても誰かが酔っ払って何かとサモナイト石を掛け合わせた結果、失敗して降ってきたものだ。 決して誰かが吐いたわけじゃない。 もっとも、お役御免かどうかはまだ分からないけど。 ジルコーダを駆除して、何故かみんなで鍋パーティへともつれこんで。 空腹と疲労が手伝って、杯を傾けた者はその多少に関わらず、ハイになっている。 この場では、正気を保っている者が負けなのだ。 ヘビー級の後片付けが待っている。 食器類は言うまでもないが、泥酔者の撤収もその中に含まれていることは容易に想像がつく。 ここは効率良く自分を酔わせ、明日に差し支えない酒量を守りつつ、そして都合の悪いものには目を瞑れるだけの理性を無くす必要があった。 そしてその点では、俺は圧倒的に不利だった。 何故なら、生真面目な先生にアルコール類を禁じられてしまっていたからだ。 宴の席でアルコール無しもさみしいが、そこは仕方がない。仕方がないが、だからと言って片付けも嫌だ。 乱れ飛ぶ、空の酒瓶。 このハイペースの原因は、紛れもなくあの占い師にある。 ピッチが尋常じゃない速さだから、酒を呑む機会のあまりない奴はそれに釣られてしまう。 自分の許容量を把握していないと、メイメイの隣で呑むのは暴挙と言えるのだろう。 そして自分に自信のある奴は、メイメイに呑み競べを挑み、無惨にも突っ伏して寝てしまっている。 いや、酒を呑みすぎると“眠る”んじゃなくて“気を失う”って聞いたことがあるな。じゃあ気を失ってるんだろう。 年少組を早々に就寝(という名の避難)させて良かった。 こんな所にいたら息をするだけで酔っちまう。 空気がすでに酒臭くて、俺もすでに顔が熱り始めていた。 ……そして、きっとそろそろ避難するのが良いのだろう。 なんだが周りが静かになってきた気がする。 これはあれだ。 “嵐の前の静けさ” 「ナナシー!」 予想は的中した。 だが、出来れば的中して欲しくはなかったし、欲を言えばもう少し早く知らせてくれても良かったと思う。俺の第六感。 顔を上げれば台風の目がこっちに向かってニコヤかにおいでおいでしている。 嫌すぎる。 死屍累々。 メイメイの周りはそんな言葉がしっくりぴったり当てはまるって感じで、いつの間にかほとんどが潰れていた。 後の生き残った奴らも7割5分くらいは夢の世界にお呼ばれされかけていて、それで唯一生き残っている俺に白羽の矢が突き刺さった、とそういう事のようだ。 ……そうか、“片付け”の中にメイメイの回収も含まれていたか。 「どこ行くのよ」 「え?もうツマミ無くなっただろ? ちょっと作ってくるよ」 平然を装って、この場を抜ける口実を作る。 こんな場に居たら俺の身が持たない。 泥酔して動けなくなった頃に戻って、そこから撤収作業にかかろうと腰を上げる。 だが敵もさるものだ。 「ツマミなんていらないわよー。そんなの食べちゃったらー、お酒がたくさん呑めないじゃなーい?」 ……そう言えばメイメイは酒を呑みたいあまりに水分を取らなすぎて、脱水症状で行き倒れてた……なんて聞いたな。 素晴らしい鉄の肝臓だ。 「そんなに呑んだら肝臓イカレちまうぞ? その辺にしとかないか」 「えー。まだ呑み足りなーい。いつもはもう少し呑んでるわよー?」 「そんな端迷惑な肝臓はポイしちゃいなさい!」 「……ナナシ……、何か言ってることおかしいわよ?」 おかしいんじゃなくて危ないんだと思うなー。 ………うん、俺も酔ってるのかもな。 「ナナシー、呑んでるー?」 「呑んでねーよ。ソフトドリンク」 「にゃにぃ!? メイメイさんのお酒が呑めないって?!」 「言ってねーし呑まねぇよっ!」 第一呑んだら明日怒られるだろ!? 真面目一直線のあの先生にじゃなくて、頑固一直線のゲンジじーさんによ! 「無礼講なんだから呑めー!」 メイメイの身長が延びた。 あ、いや、メイメイが突然立ち上がった。 そして酒瓶を突き出した。 よく分かんないけど、どうやらコップに無理矢理酒を注ごうとしている模様。 何でこんな流れになったのか、傍観者がいたら俺は相談したかっけど、生憎皆様スリーピングタイムに突入中。 何この突然さ! やっぱり完全に酔ってんじゃねぇか! 千鳥足ながらも立ち上がったメイメイは、ほんとに端迷惑なことにそこらで爆睡中(ん?気絶中?)のカイルの脇腹を蹴り、追い掛けてくる。 それでも目が覚めない(うめいてるけど)辺り、一体どれだけ呑んだんだと言いたいとこだ。 しかし俺はそれ所じゃない。 追われたら逃げる。 本能的な何かに従って、とりあえず逃げた。 メイメイは前しか見ていないのか、皿を引っくり返し、グラスを蹴倒し、こけつまろびつしながらもしつこく追い掛けてくる。 ──C級のパニック映画みたいだなー。 怪獣かエイリアンか人造人間みたいなのが街中で人間追っかけまわす感じの、よくあるパターンな。 何て考えたその時。 メイメイの指が首元に触れた感触がした。 ヒヤリとしたその温度に、こっちの血液も一気に急速冷凍された。 万事休す! と、思ったそのまた次の瞬間。 _ド、ガシャーン! …何かすごい音がした。 例えるなら、足下に転がってた酒瓶に蹴つまづいてバランスを崩しそのままの勢いで顔面から地面にディープキスをした様な……。 恐る恐る振り向くと、大体その筋書き通りのことが起こったことが予想されるような、そんな素敵な有り様だった。 メイメイが引っくり返したと思われる、皿、箸、鍋、鍋のだし汁。 転んだ時に鍋のだし汁を被ったのか、何だかメイメイから美味しそうな匂いがしている。食べ物的に。 突っ伏したまま起き上がらなかったし、規則的に呼吸してるみたいだったから寝たんだろう。 これで静かに寝られる。 そう思ったら、猛烈な眠気がやってきた。 も、良いや。 明日朝一番に起きた奴が片付けるってことで。 俺はカイルのマントを剥がして、それを布団代わりにして寝転んだ。 目をつむるとすぐに眠りに引きずり込まれるような感覚。やっぱり酔ってたんだなー俺。 皆のイビキをBGMに、俺の意識は暗転した。 ××× 台風は熱帯低気圧に変わりました。 ××× でも結局一番に起きてしまって、片付けをした俺は真面目なんだろうなと痛感するのはまた別の話。 [次へ#] |