それは寒空の下の話(幸村)
真っ暗な空、
きらり星が見えたと思った。
がちゃんっ、勢い良く開いた扉に、うわやっばい見回りにバレたかと思ったけれど一瞬のことでどこかに隠れるなんてことはできなかった。先生の誰かだと思って慌てて言い訳を頭の中で浮かべ直している間に、相手がうちの制服を来た男子だってことに気づいてほっとため息をつく。相手も同じタイミングでため息をついたのだが、それは安堵というよりは落胆のそれに見えて。
「何だ、君か」
「……せいいち君ですか」
そこにいたのは3年間同じクラスのせいいち君で、ついでにいえばきっと立海で一番有名な人だった。きっと今まで部活(引退しても自主練をしているらしい)にいたんだろうななんて思う。
「どうして屋上なんかにいるの?」
「せいいち君こそ、何でそんな息あがらせてまで屋上なんかに来たんです?」
「先に質問したのは俺だよ」
にっこり笑ってくる。きっと普通の女の子ならここは頬を赤らめる場面なのかもだけれど、3年間も同じクラスにいたらいい加減美形にだって耐性できるでしょう、それにあたしはこの胡散臭い笑い方が好きなわけじゃないしね。
「星を見ていたんですよ」
「…星?星なんか神奈川で見えるわけないじゃないか」
「見えますよ、ほら」
あたしが指を差した先をせいいち君は追う。そこには三角形を作るように、明るい星が三つ並んで輝いていた。呆気に取られたようなせいいち君を見て、あ、こんな表情もできるんだ、と考えて少し笑う。
「…下からじゃ全然見えないのに」
「だから屋上にいるんですよー。…あ、そうだ。せいいち君」
何、とこっちに目線をくれる。さっきの胡散臭い笑みはもう見せない、のがなんか嬉しい。
「せいいち君と真田君と柳君で、三強って呼ばれてるって聞きましたけど本当ですか?」
「…ああ。そう呼ぶ人もいるよ」
「じゃああの星、三強って呼びましょう!」
「は?」
「あの星達の正式な名前なんてあたし知らないんですよ。だからあれ、三強って呼びますね。せいいち君はあのてっぺんの星!」
またぽかんとした顔をしたせいいち君は、少ししていきなり笑い出した。変わってるね、なんてお腹を抱えて笑われたところで全然嬉しくないんですが…!
「そっそれよりせいいち君は何でここに来たんですか!やたら慌てていたように見えましたよ?」
そこでせいいち君は数瞬黙り込む。さっきは即却下された質問だから、今度はゆっくり言葉を選ぶように返答してくれた。
「……光ったような気がしたんだ、星がね」
「…へぇ。そうなんですか」
「部活で疲れているはずなのにわざわざここまで。いたのは君だったんだけど」
「悪かったですね、星じゃなくて。ほら、でも三強の星があるじゃないですか」
「……君が言うと野球漫画みたいな風に聞こえるんだけど」
「せいいち君が野球は似合わないですねー。野球ならきっと監督だと思いますよ、ベンチから絶対に動かなくて、指示とか全部真田君にやらせるんです」
せいいち君はそれなかなか良いかもね、と笑った。
「じゃあ君はマネージャーね」
あれ、どうしよう。
胸がうるさい。
三強と呼ばれて
(その言葉の重荷とかそういうの、気にしないような口振りで)(それは何だか新鮮だった)
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