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遠くで君の声がした(切原)




その人はいきなり後ろから俺に目隠しをして、間違い探しだよ、と言ってからその手を外した。俺は勿論振り返ってその人を見る。……見る。





「ちょ、先輩、……その髪!」


「へへ、失恋記念なのだ!」




先輩の胸まであった髪はばっさりとボブになっていて、それでいて本人はからからと笑うものだから、失恋をさせた張本人である俺の胸が痛んだ。




昨日、先輩は俺に告白をしてきた。告白といっても手紙で昼休み校舎裏に呼び出すようながっちりとした告白ではなくて、たまたま玄関で居合わせてぽつぽつと会話をしていたら「そういえば、あたし赤也のこと好きなんだよね」と唐突に言われたのだ。ばっかじゃないっすか、冗談と取って俺は笑ったけれどもその時先輩は傷ついた顔で笑った。




「記念って何すか。嫌味?」


「違う違う、あたしのけじめ。これで悔いなく高等部に行けるってわけ」





俺は先輩が好きだ。
告白された時は正直手に持っていた靴を落としそうになるほど動揺した。口から出た言葉は気持ちとは正反対のそれで、傷つけたとわかっていながらもそれは訂正されることはなかった。





自慢するわけではないが立海男子テニス部といえば一種のブランドで、そのブランド目当てで近寄ってくる女なんて沢山いる。部長や仁王先輩に勝てる気はしないが、少なくともこの学校の2年の中なら俺が一番目立っている自信がある。そういう人間の彼女になるということがどういうことか、わからない程俺は馬鹿じゃない。女の嫉妬は醜いのだ。




「…ほんとに、俺のこと好きだったんすか?」


「うん」




だから好きな相手こそ、自分の彼女になんて出来ないのだ。あっさり首を縦に振る目の前の大好きな先輩を抱きしめることは俺には許されない。




「部長とか仁王先輩じゃなくて?」


「うん。あたしが好きなのは赤也だよ?」






俺が強ければ。先輩を守れれば。今ここで俺から告白をしてキスでも何でもしてしまえるというのに。





「……先輩、」


「あたしね。そんな弱いつもりないんだよ。何なら赤也を守ってあげる」





何で言わなくても伝わっているのだろう、先輩だから、なんだろうけれど。そんな先輩だから好きになったんだろうけど。






「んなのカッコ悪いじゃないっすか」






俺が先輩に守られるなんて嫌だ。嫌だけれど、守れはしない。






「自分の身くらい自分で守るよ?あたしは好きな人が隣にいるだけでいいもん」


「……俺部活ばっかでデートとか出来ないし」


「部活終わるまで待ってる。一緒に帰ればデートだよ」


「学年違うから呼び出されててもわかんないし」


「大丈夫、幸村と同じクラスだもん」







…決めた。
先輩を守れるくらい強くなろう。授業が終わったら先輩のクラスに走ろう。昼休みは先輩も誘ってご飯を食べよう。何だこんなに簡単なことだったじゃないか。






「先輩」



「ん?」


















とりあえず抱きしめていいっすか?

(先輩先輩!屋上行きましょー!)(ふふ、また赤也か)(ちょ幸村笑顔が怖い!)












あきゅろす。
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