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☆abmz
君憂う(阿水)
※大学生パラレルです。






















あの夏を忘れない。

皆で追いかけた白球も。

皆で走り回ったグラウンドも…。





そして、
あの燃えるような熱い恋心も…。

いつだって忘れたことはなかった。
















大学生なって二年と四ヶ月が経った。今、俺は大学三年生。
大学生生活は順調だった。単位はギリギリだけど、なんとか留年だけは免れていた。

大学入って彼女も出来た。
俺に好意を寄せてくれる女の子は、失礼な言い方だけど、大抵派手めで軽い感じの子が多かった。だけど彼女は違った。控えめで可愛らしい女の子だ。その子とも明日で丸二年になる。明日明後日はお互い休みなので、記念日を祝う為にちょっと遠出して一泊旅行を計画していた。数ヶ月前から計画していた旅行なので、二人とも楽しみにしていた。


AM0:30。
今はその旅行の準備をしていた。彼女はもう準備終わっただろうか…そんな事を考えていたら、玄関のチャイムが鳴った。

こんな時間に誰だろう…?
もしかして彼女だろうか…?


覗き穴から見てみたら、そこには予想だにしない人物が立っていた。


阿部だった。


急な出来事で混乱した頭で「何で阿部が?」とか「どうして俺ん家知ってんの?」とかぐるぐる考えていたら、もう一度チャイムが鳴らされた。その音にハッとして、浮かんだ疑問もそのままに慌ててドアを開けた。



「………よう。」



気まずそうに片手を挙げる阿部。その場に立たせておくのも何なので、とりあえず阿部を中に入れた。



「酒くさっ!」



俺の横を通り過ぎた阿部から酒の臭いがして思わず言ってしまった。阿部は俺をチラリと見やり「悪いな。」と笑い、部屋の奥へと進んでいく。その背中を眺めながら、阿部がこの部屋に来た事あるのを思い出した。以前、栄口が街で偶然阿部を見かけて、一緒にウチまで遊びに来た事が一度だけあったな。栄口は大学も同じで、今でもよく遊んでいる親友だった。でも、一度来ただけで覚えれるもんかな?って思ったけど、阿部の記憶力ならあり得ない話でもない。
これで先程浮かんだ疑問の一つは解決した。


問題はあと一つ…『何で阿部がウチに来たのか?』だ。まさか、高校卒業して一度も連絡した事なかった相手に『近くに来たから寄ってみた』は無いだろう。



「どうしたんだよ、いきなり…。」



テーブルに突っ伏す阿部。顔だけはこちらを向いていたので、グラスに冷蔵庫から出したばかりの冷たい水を注いで、目の前に置いてやった。ぼーっとグラスを見つめる阿部を見て、結構出来上がってるんだと知った。阿部の酔ってるとこなんて初めて見たし……。
身体を起こした阿部が水を一気に飲み干す。その際に気付いたのか、テーブルの横に置いていた旅行バッグを見て、



「お前どっか旅行行くの?」



と聞いてきた。
俺の質問はどこに行ったんだろう…?そう思ったが酔っ払いにまともな会話を望む方がおかしいか…と、ため息をついた。



「そうだよ…明日から彼女と一泊。」

「……ふーん。」



心底つまらなそうに阿部が返事をする。もしかして彼女と別れて、やけ酒でも飲んだんだろうか…?そんなタイプでもなさそうだけど……。



「阿部は?そういう彼女いないの??」



俺の邪推が当たっていれば、阿部の傷に塩を塗るような発言だけど、俺は実際何も聞かされてない訳だし、無駄に気を遣う必要はないと思って聞いてみた。



「……………今日、合コン行ってきた…。」



また俺の質問は無視??
そう思いかけたが、これは『彼女がいない』って事を遠回しに答えているようだった。その言葉をきっかけに、阿部が俺ん家に来た理由を話し出しそうな気がして、「へぇ」とだけ相槌を打った。



「今日は皆レベル高くてよ、ラッキーって思ったね。」

「へぇ、良かったじゃん。」

「だけどさ、その中に……高校の時すげぇ好きだった奴に雰囲気が似た子がいてよ…。……俺、そいつの事忘れようって今まで必死だったのに…。」



阿部が一点を見つめ淡々と語る。

待って、阿部。
高校の時、好きな子いたの?あんなに野球バカだったくせに…。

俺は無性に阿部の好きだった相手が誰だか知りたくなった。全然気付かなかったけど、もしかしたら俺の知ってる子である可能性も高い。
だけど、阿部の話の腰を折るのも悪いから、阿部の好きだった相手は後から聞き出せばいいと思い、ひとまず置いといた。



「必死で…そいつと違う色んなタイプの女と付き合ったよ。愛なんて無かった……ただ、利用したんだ…最低だよな……。でも忘れる事なんて出来てなかった。その子を見た時、そう思い知らされたんだ。忘れるどころか、益々そいつを好きになってる気がしたよ。」



自嘲気味に笑い、俯いて頭を掻く阿部が、一気に脆い存在に見えた。
あんなに頼もしい男だったのに…。こんな弱々しい一面もあったなんて…俺は、阿部の事全然知らなかったんだな……。



「俺も自棄になってたのかな…。今まで違うタイプで駄目だったんなら、そいつに似たその子なら忘れさせてくれるんじゃないかって思った。」

「………ねぇ、阿部。」



今まで黙って阿部の話を聞いていた俺だけど、どうしても気になる点があったので、話を遮って聞いてみた。



「そんなに好きな相手なのに、どうしてそんなに必死に忘れようとしてるの?…振られた、とか?」



我ながら不躾な質問だった。だけど阿部は嫌な顔一つせず答えてくれた。



「叶わない恋だったんだよ。」

「…叶わない、恋…?」


「そう…。告白する事すら許されない、恋……。」

「…許されない、恋…。」



阿部の言葉を反芻しながら意味を理解しようとした。
許されない恋って…?
友達の彼女、教師、不倫…色々考えたけど、どれもしっくり来なかった。
更に考え込もうとしたら、阿部が話を再開させたので、中断して阿部の話に耳を傾けた。



「幸いな事に、その子は俺の事気に入ってくれたみたいでさ、誘ったら俺ん家まで着いて来たんだよ。」



俺の知ってる阿部じゃないみたいで、この発言に不快感を覚えた。
だけど、何となく阿部が相当追い詰められてそうな雰囲気だったから、黙って見守ってみる事にした。



「………けど、出来なかった…。」



阿部が大きくうなだれる。声がかすかに震えてる。



「今までみたいに、そいつの代わりとして抱けばよかったのに……出来なかった。申し訳ないけど、その子に悪いって気持ちは少しも無かった。むしろそいつに申し訳ない気持ちの方が強くて……。俺、もうどうしたらいいか分かんなくなって…。」



頭を抱え小刻みに震え出した阿部の肩に触れた。こういう時、人の温もりに触れれば少しは落ち着くかもしれないって思ったから…。
効果があったのか、次第に阿部の震えは治まっていった。
下を向いていた阿部が顔をこちらに向ける。肩に触れる為に近づいていたから、目が合った距離が少し近かった。



「本人に会いに行けば、何か分かるかもって思って……。」







え……?
………本人、って……?























「水谷、……抱かせてくれ。」

「えっ…?」



唇に熱いモノが押し当てられて、俺は後ろに倒れてしまった。倒れた衝撃で「った!」と声を上げたら、開いた口の隙間から阿部の舌が入り込んだ。


本人って、俺の事…?
じゃあ、阿部がずっと好きだった相手って……俺!?



信じ、られない………。



熱いものが胸の奥から溢れてきて、瞬く間に全身に広がる。

あの頃の気持ちと同じだった。
野球をやっていた頃に、密かに抱いていた熱い恋心と同じだった。



俺も、阿部がずっと好きだった。



だけどこのまま阿部に抱かれる訳にはいかなかった。こんな事しても、阿部にとって何の解決にもならない気がしたし、これだと俺と阿部は、身体で繋がってしまうように思えたから。俺は阿部と、ちゃんと心で繋がっていたいと思った。
俺は正直に反応する身体に反して、必死に抵抗した。



「あ、べっ……んぅ!」



押し退けても、顔を逸らしても追いかけてくる阿部の唇。更に、俺の股の間に割り込ませた太股を押し上げて、俺自身を刺激してくるもんだから、その快感に俺の頭は逆上せそうになる。


流されちゃダメ、だっ…!



力を振り絞って阿部を押し退けて、バチン!と阿部の頬を平手で打った。
頬を押さえ、阿部が呆然と俺を見下ろす。
俺は肩で息をしながら、唾液で濡れた唇を手の甲で拭って阿部を見上げる。



「……阿部は、俺を抱けば満足するの?俺の事忘れられるの?」



阿部の瞳が大きく揺れて、視線を逸らされた。



「…違うよね?……阿部きっと、俺を抱いたら、罪悪感とかで俺の前には二度と姿を見せないと思う。でもやっぱり俺が忘れられなくて、また女の子たちを俺の代わりに抱く……。結局、今と何も変わんないよ?」



自意識過剰な推測だと思われるかもしれないが、今まで阿部の話を聞いて、阿部のそいつ…つまり、俺に対する愛情は相当深いものだと感じ取れたから、俺の推測もあながち間違いとは言えないだろう。
阿部が、眉間にシワを寄せ苦しそうな表情でペタンと座り込む。その表情は、涙は出てないが、泣いてるんじゃないかと思った。

自分を覆っていたモノが無くなったので、俺は身体を起こした。そして俺が打ってしまった阿部の頬を撫でる。



「ごめんね……。阿部、明日また来てよ。今日はお互い頭冷やしてさ…、また明日話をしよう、ね?」



阿部は、俺の顔をしばらく黙って見ていたが、やがて静かに頷いた。




玄関先まで送ると、



「その、……悪かったな。」



阿部が視線を伏せて謝る。すっかり酔いは覚めているようだった。



「…いいよ。じゃ、また明日ね。」



そう言うと、阿部は困ったように笑いながらエレベーターの方へと向かっていった。
その表情から、阿部は明日ウチに来ない気がした。……まぁいい、そん時は俺が阿部ん家に乗り込んでやるから。
そう企みながら玄関のドアを閉めた。



部屋に戻って、嫌でも目に入る旅行バッグ。盛大にため息をつきながら携帯を手に取る。

俺も、阿部に負けず劣らず最低な男だよ……。



『もしもし?』



三コール目で聞こえてきた聞き慣れた優しい声。俺は今からこの子を酷く傷つける。



「ごめんね、こんな時間に……寝てた?」



本当にごめんね、そしてありがとう。
罪滅ぼしではないけれど、俺はあいつを一生愛していくから…あいつと幸せになるから……。
だから、君も…俺じゃない別の人と幸せになってね。…君の幸せを心から祈ってます。







「話が、あるんだけど……。」



END.

病んでる阿部に男前な水谷…;最近の私はキャラ崩しが好きなのかしら?←
水谷はメンタル面は器用そうなので、阿部を好きな気持ちをうまく誤魔化して、気持ちに蓋出来そう。阿部は真面目で不器用だから、気持ちを誤魔化せずに苦しみそうだな〜って思いました。
あれ?最近阿部の不器用ネタ多い??←
そしてシチュが5000企画の一つに似ている……引き出しの少なさに涙が出てきます(笑)

ほのぼのかギャグ書きたい…orz


09.06.28

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あきゅろす。
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