☆abmz
俺限定。2
阿部が扉を勢いよく開くと、そこには俺たちと同じ練習着を着た高校球児がわんさか居た。あれ…?何で皆居るの?
「お前ら……何やってんだよ?」
一番手前にしゃがんでいた泉がため息ついて立ち上がる。
「なぁ、阿部……。」
泉が厳しい表情で阿部を見据える。その雰囲気から何かあったんだろうかと心配になった。泉が次の言葉を発するまでは……。
「俺のほっぺにもキスしてくんねぇ?」
「………!お、おまっ!?」
俺と阿部が目を見開いていると、泉を含めた他の部員がどっと笑いだした。さっきの見られてた?もしかして俺たちからかわれてる??
真っ赤になってつっ立っている阿部の横をすり抜けて皆が保健室に入ってきた。
「大丈夫かぁー?水谷ぃ!」
「心配したよ。」
「お腹空いてない?おにぎり持ってきたんだけど食べる?」
ベッドの回りに皆集まってきて、栄口からラップに包まれたおにぎりを二つ渡された。篠岡が包んでくれたんだろう。未だ入り口に立っている阿部にも、同じようなおにぎりを花井が渡していた。阿部、おにぎりも食べずに俺のトコまで来てくれたんだ…。ちゃんと休まないと部活最後まで保たないでしょ。
「阿部大変だったんだぜ〜。水谷が保健室に向かった時『何があったんだ!?』ってすげぇ形相で聞いてくるしよ。」
「そうそう!戻って来た花井と西広にもしつこく様子聞いてたしね〜。休憩になった途端、三橋放ったらかしで水谷の荷物持って走って行っちゃうし。」
「…っ!お、お前ら黙れっ!!」
泉と栄口に囃し立てられ、真っ赤になる阿部。隣では花井が『落ち着け』と宥めているが、その顔は笑いを必死に堪えている。
「水谷ぃ、お前愛されてんな!」
田島が特有の天真爛漫な笑顔で言う。
「あ、愛って……!」
「た、じぃまぁぁ〜!!」
田島の発言に阿部が拳を握る。俺は恥ずかしくなってオロオロするしか出来ない。
「え?違うのか??」
「「……っ!」」
田島は素直というか何というか……。
俺たちは言葉に詰まってしまった。田島が言ってる事を否定してる訳じゃない。俺も阿部を愛してるかと聞かれたら、愛してるって迷わず即答できる。阿部も同じ気持ちでいてくれてるのは解ってる。だけど照れ屋の阿部じゃなくてもその言葉を皆の前で言うのは憚れるもんだ。
田島に真っ直ぐな視線を向けられて阿部は困っていた。田島だけでなく皆の視線が阿部に集中していた。
観念したかのように阿部がため息をついた。
「………違わねぇよ。」
阿部が言うと、周りから喚声が上がる。冷やかされながら皆に小突かれる阿部の姿は珍しくて笑えた。不器用な男だ。うまく誤魔化せばよかったのに…そういう事出来ない性格なんだろうな。
「……っるせぇー!!部活戻るぞホラっ!」
「阿部声でけー。」
「水谷の迷惑だろ?考えろよ〜。」
「うっせ!早く行くぞ!」
ブーブーと不満を口にしながらも保健室から出ていかされる部員たち。
「それ食って元気だせよー!」
「ゆっくり休んで早く部活復帰しろよ。」
「そうそう、阿部とのラブラブっぷり楽しみにしてるぜー。」
「こんな阿部なかなか見られないしね〜。」
「お前らマジ黙って……。」
うなだれる阿部をしんがりに皆が出て行くと、保健室がしーんと静まり返る。なんだか急に淋しくなったな〜なんて思っていると、開きっぱなしになっていた扉から阿部が顔を出した。
「今日はゆっくり寝ろよ。……………あんま心配させんな。」
「うん、…ごめんね?」
阿部が微笑むと、遠くから泉のからかう声が聞こえた。それを聞いて笑顔が歪む阿部。俺も苦笑いを浮かべるしかない。
「じゃ、行くわ。」
「うん、色々ありがとう。阿部も無理しないでね。」
「……おう。」
笑顔で手を振ると阿部が静かに扉を閉めた。
本当に誰もいなくなった。
静かになった保健室でさっき貰ったおにぎりを口に運ぶ。いつもと変わらない味に、部活へ出たい気持ちが高まってきた。
そして思い出すさっきまでいた大好きな部員たちと愛しい恋人。
阿部はまだ皆にからかわれてるんだろうか…?でもこれで皆の阿部イメージ良くなったんじゃないかな。阿部は本当は優しいって。
けど、阿部が皆に優しかったら俺きっとヤキモチ妬いちゃうから…。
その優しさは、俺限定…ってコトでお願いします。
END.
他の部員にからかわれる阿部を書きたかったんです。冒頭のセリフは上から花井、沖、栄口、田島、泉です。途中のセリフで明確にしてない所は、常識的な事言ってるのは花井か沖か西広で、語尾に「!」が付いてるのは田島、酷い言い様なのが泉か栄口です(笑)
長くなりすぎた;
脇道に逸れるのを無理やり軌道修正しながら、なんとか最後まで書けました(´Д`)よかった〜←
終わり方が中途半端…??
09.06.22
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