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☆abmz
俺限定。(阿水)



「えっ!?何で阿部…?」

「…仲悪いかと思ってた。」

「……本当に、いいの?あんな酷いヤツで。」

「……水谷ってドM?」

「つか、趣味悪ぃよな。」



阿部と付き合いだして、その事を阿部がいない時に野球部の皆に告白したら、こんな事を言われた。阿部がいない時って言っても、皆に発表する事は当然阿部も了承済み。


俺と阿部って組み合わせが余程意外だったのか、皆結構驚いていた。

…にしても皆の阿部イメージって……。いないのをいい事に、皆阿部のコト散々に言ってくれちゃって…。阿部は一見ぶっきらぼうだけど優しいんだからね!
…でもそんな阿部の一面は俺だけの秘密。恋人の俺だけが知ってればいいんだもんね。









ある夏の日。
俺は朝から体調が優れなかった。朝起きた時は頭が痛くて、時間が経つにつれて頭痛は消えていったけど、全身のダルさは増していった。

夏バテってやつかな〜…?

伸びをして深呼吸すれば、少しは楽になった気がして、朝食を食べ終えると朝練へと向かった。
その日は朝から雲一つない青空で、立っているだけで身体中の水分やら体力が奪われていく。これならわずかだが風を受けれる分、走ってた方がマシだと思った。

朝練が終わる頃にはもう、くたくただった。
今日の授業は睡眠学習で決定だな。しかし、この密かな誓いは一限目の現国教師によって阻まれる事となる。




結局、望んだ睡眠時間は得られないまま放課後を迎えた。


よし、部活だ!


気合いを入れ直すために大きく伸びをして、両頬をぱちんと叩いた。力加減を間違えたか、少しだけ両頬がじんじんする。


「気合い入ってんな。」

「阿部。」


頭にポンと手を置かれた感覚に見上げると、俺の愛しの恋人が嬉しそうに笑って立っていた。きっとこの野球バカは、俺が野球にやる気を出してるのが嬉しいんだろう。こういう阿部も可愛くて好き。


「もちろんじゃーん。今日の俺はいつもと違うよ〜なんて。」

「はは、期待してんぞ?」


今日の阿部はご機嫌なようだった。



















「おい、水谷!?」

「大丈夫か!?水谷!?」


真っ暗な世界で名前を呼ばれる。いつの間にか閉じていた目をゆっくり開くと、目の前には心配そうな花井と泉の顔があった。


「………あれ?…俺……。」


俺はグラウンドに仰向けに寝ていた。何でこんなトコに俺は寝てるんだろう…。
部活に来てからの記憶を辿る。

確かあの時、教室で阿部に声をかけられて、花井も合流して三人でグラウンドに向かった。
皆揃ったところでアップを始めた。途中でモモカンが来て挨拶して…アップが終わると集合して今日の練習内容を確認した。
特にいつもと何も変わらない。


……そうだ、あの時…。
守備練習が始まった時、目の前がチカチカし出したのを思い出した。外野は外野でフライを捕る練習をしていたから、俺の順番が回ってきたので、ボールを追って空を見上げた。すると一瞬空が白く光って、そこで俺の記憶は途切れた。そして気付くとグラウンドに横たわる自分がいた。




俺、倒れたのか………。


そう自覚すれば、背中や後頭部が痛み出す。



「水谷君、大丈夫?」



いつの間にかモモカンや内野陣までもが、俺の回りに駆け付けていた。阿部の姿が見当たらなかったのは、三橋とブルペンで投球練習してるから、きっとこちらには気付いてないんだろう。こういう時、なぜか好きな人の顔が見たくなるのは俺だけだろうか……?
「大丈夫です」と起き上がろうとしたら、両脇から花井と西広が支えてくれた。頭は痛いし、何だか手足に力入んないしで…二人が支えてくれて助かった、と思った。

そして俺は、そのまま二人に支えられながら保健室へと向かった。その途中、遠くで俺を呼ぶ阿部の声が聞こえた気がしたけど、振り向いて確認する体力は俺には残っていなかった。


しばらく保健室で休んでから、お家の人に迎え来て貰いなさいってモモカンは言ったけど、今日は両親とも帰りが遅いから無理かも…。保健室に向かってる途中で、ぼそりと呟いてみたら、職員室に保健室の鍵を借りに行った花井が、偶然いたシガポにその事を相談したらしい。


「シガポが仕事終わったら送ってくれるって。それまで保健室で寝て待ってろ。」


花井ってホント気が利くよね。つくづく感心しちゃうよ。


「これ、脇の下に挟んどこうか。」


西広が、水と氷を入れた小さなビニール袋をタオルにくるんでいた。


「水谷、顔真っ赤だし熱射病みたいだから。」


そう言って、同様に首の後ろとおでこも冷やしてくれた。西広はなんて頼りになるんだろう…。


俺、迷惑かけっぱなしだね…。


「花井、西広…ごめんね?」


ベッドに横になったまま、二人を見上げ謝ると、花井に鼻をつままれて、


「そんな気ぃ遣う暇あったら休め!」

「そうだよ。ゆっくり休んで早くいつもの水谷に戻ってよ。」


西広も、優しく笑ってくれた。


「また後で荷物とか持ってくるから。」


お礼を言うと、二人は部活へと戻って行った。急に静まり返って襲ってきた眠気に誘われるままに、俺は目を閉じる。





















おでこに、ひやりとした感触がして目が覚めた。重い瞼をゆっくりと持ち上げる。


「悪い、起こしたか?」


あ……、阿部だ…。
視線の先に阿部を捕えると、なんかホッとして笑みがこぼれてしまった。阿部を見てると、なんだか落ち着く。
阿部は溶けてぬるくなってしまった氷の袋を回収して、新しく冷たく濡らしたタオルをおでこに乗せてくれていた。


「もぅだいぶ熱引いたみたいだな。」


頬に触れた阿部の手が冷たく感じたのは、先ほど冷水を触っていたせいだろう。


「飲むか?」


目の前に、さっき自販機で買ってきたばかりであろう冷えたスポーツドリンクを差し出した。頷いて身体を起こそうとしたら「大丈夫か?」と阿部は心配そうに手を伸ばす。ぐっすり寝たせいか西広の氷のおかげか、身体は随分と楽になっていた。「大丈夫」と答えながら上半身を起こすと、阿部が隣のベッドから持ってきた枕を背中の所に重ねてくれたので、俺はそれに背を凭れた。飲んでる間も阿部は心配そうに俺を見ていた。


「今、休憩中?」

「あぁ。」


充分に喉を潤わせ、ペットボトルを蓋をして枕元に置く。ふと視線を下げると、ベッド脇に俺のバッグが置いてあった。阿部が持ってきてくれたのかな?確認しようとしたら、先に阿部が口を開いた。


「もしかして、今日体調悪かったのか?」

「う〜ん……ちょっとだけ?」


今思えば予兆ではあったのかもしれないけど、倒れる前まではちょっと身体がダルいくらいにしか思ってなかったから、曖昧にしか答えられなかった。


「ごめん…全然気付かなかった。」


投げ出していた俺の左手を取り、阿部が謝った。


「謝んないで!阿部のせいじゃないんだから…。俺の自己管理がなってなかっただけだよ。」

「………でも俺悔しかった。水谷が倒れたのも全然気付かなくって…花井と西広に連れ添われて行くの見てようやく気付いて…。泉に聞いたら、お前が倒れたって言うから……。」


ベッドの隣の椅子に座っていた阿部が前屈みになって、ベッドに両肘をつく。握られた俺の手は阿部のおでこのところで、更に強く握りしめられた。


「それは……離れた所にいたんだから、しょうがないじゃんか…。」

「それでも…一番に気付いてやりたかった……。」


その気持ちだけで嬉しかった。俺も倒れた時、阿部の顔見たかったから…阿部も同じように想ってくれてるだけで幸せだと思った。


「阿部…そう思ってくれるだけて充分だよ。こうやって阿部が側にいてくれたら、それだけで俺は幸せだから。ありがとうね、阿部。」

「水谷……。」


険しかった阿部の表情が和らいでいく。強く握りしめられた左手も、今は優しく包まれているようだった。

「…阿部、大好き。」

「……俺も、お前が好きだよ。」


阿部が腰を上げてベッドに腕を突っ張る。ギシッという音と共に近付いてくる阿部の顔。目を閉じると左の頬にキスされた。てっきり口にしてくると思ったのに。頬にキスされるなんて久しぶりだから、なんだかお互いくすぐったくて笑い合っていると、保健室の扉が『ガタン』と音を立てた。
阿部と顔を見合わせていると、扉の向こうからコソコソと聞き覚えのある声が聞こえる。不審に思って阿部が立ち上がり扉の方へと向かう。カーテンを引いてなかったので、こちらから入り口の扉がよく見えた。よく見ると引き戸タイプの扉は数センチ開いていた。







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