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☆abmz
雨の日のありがとう(阿水)




「……止まないね、雨。」



「………だな。」



教室の窓から、二人並んで外を眺める。
教室にいるのは俺と阿部の二人だけ。


今日は午後から土砂降りの雨で、
グラウンドが使えない野球部の本日のメニューは、体力作りの為の基礎練習となった。

ボールが使えず基礎練習だけとなると、やる事はやはり限られるので、
今日の部活は早めに切り上げられることとなった。
まだ陽は落ちていないけど、光は雲に遮られ辺りは少し薄暗い。



早々に着替えを済ませ、二人で教室に駆け込んだ。

特に打ち合わせはしてないんだけど、お互い二人で帰れる機会があれば自然に二人きりになろうと画策した。



「…もう皆帰ったかな?」



そう呟きながら時計を見る。
もう部活が終わってから三十分以上経っていた。



「そろそろ帰るか……。」

「だね。」


阿部と目を合わせて笑うと、バッグを肩に掛け揃って教室を出る。

靴を履き替えて傘をさし、二、三歩前を歩く阿部の背中を追いかける。
追いつくと、阿部は俺に微笑んでくれた。
そんな阿部に、俺は満面の笑みで答える。




この時間がしあわせだ。
阿部がいて、俺が隣にいれる…。
いつも皆で行くコンビニまでのわずかな距離だけど、
今日は全部俺と阿部だけの時間。
誰にも邪魔されない。


その分、傘をさしてる為の数十センチの距離がもどかしく感じる。






しあわせな時間が過ぎるのは早いもので、
あっという間にコンビニに着いてしまった。


ここでお別れするのは淋しかったので、しばらくコンビニで時間を潰そうって事になった。
雑誌コーナーで立ち読みしたり、お菓子やパンを物色したりして、結構長い時間コンビニに居座った。
長居しておきながら、結局購入するのはそれぞれパン一個ずつ。
店員からしたら、なんて迷惑な客だろう……でも騒がしくしてないから大丈夫だよな、うん。


会計を済ませようと商品をレジに置く。
財布を取り出そうと、バッグを漁りながらふと気付く。




「あ。財布忘れた。」


その言葉に店員の動きが止まり、俺の顔を見てくる。
『え、この商品どうすんの?』的な目で。
そんな視線を受けながら、俺は後ろに並んでた阿部を見る。
『どうしよっか?』的な目で。
すると店員の視線も阿部に移り、二人からの視線を受けた阿部がため息をつく。


「すんません、これも一緒に…。」


自分のパンをレジに置いて、俺の分も一緒に払ってくれた。


「ごめん、阿部ぇ。明日返すね?」


阿部からパンを受け取りながら、出口に向かう。


「おー。てか、俺今気付いたんだけど…300円しか入ってなかった。」

「ぅおっ!ちょーギリギリじゃん!?あっぶねー。」


買おうとしたのがパン一個ずつで良かったよ。
それ以上買おうとしてたら、二人揃って恥をかくところだった。


「昨日遣って、入れるの忘れてたな…。」


と、呟く阿部に、


「…阿部も結構抜けてんだね。」


って言ったら、「お前に言われたかねぇ。」と頭に軽いチョップをくらった。


コンビニを出ると、雨は少しだけだけど小降りになっていた。それでも傘をささないと、すぐにびしょ濡れになってしまうくらい。

傘をさそうと傘立てに手を伸ばす。


「……あれ?」

「…どうした?」


先に傘をさして歩きだした阿部が、おれの声に振り返る。










「…俺の傘、盗られた……。」


「へ…!?マジで?」


マジも大マジだよー…。
確実にここに立てたのに…。
長居してる間に誰か盗ってっちゃったのかなー。
人の物盗っちゃだめって教えられなかった?もー…。

店員さん…に言ってもしょうがないか……。
コンビニで買う…財布忘れてるし…、阿部にも借りれないし……。




どうしよう………。






「…入ってくか?」

「へ…?」


予想外のお誘いに心が揺れた。


「で、でも…そんな事したら阿部が大変じゃ…。家、反対方向なのに……。」


俺には嬉しい申し出だけど、阿部には迷惑な話だと思う。
こんな雨の中、反対方向の俺を送ってからまた自分ん家まで歩いて帰るなんて。
一時間以上はかかるよな…?


「いいから。」


入れよ、と腕を引かれた。
分かってた事だけど、普通の傘に男子高校生が二人も入ると、かなり窮屈だ。


「で、でも…。」

「しつこい。…お前もう少し俺と一緒にいたいとか思わねぇの?」


俺がいつまでも遠慮してると、阿部がふてくされた顔で聞いてくる。


「それは、思うけど……。」

「じゃあ、いいじゃん。帰ろうぜ。」


これ以上断ったら、阿部が怒り出しそうだったから、大人しくお言葉に甘える事にした。
とはいえ、入れてもらう身分で、がっつり入ってしまうのは気が引けたから、
阿部と肩が当たるか当たらないかくらいの距離を置いた。はみ出した右肩がびしょ濡れで冷たい。

阿部は、濡れてないかな…?

さり気なく阿部の左肩を覗こうとしたら、左手で俺の左手を握られ引っ張られた。


「もっとくっつけよ。右肩濡れてんだろーが。」

「う、うん。…でも、あんま俺が入ったら阿部濡れちゃうよ?」


「あ?…こうしてくっついとけば大丈夫だろ。」


持っていた傘を左手に持ちかえ、空いた右手で俺の左手を握り自分の方に引き寄せた。
傘、すごい持ちにくそうだけど。


繋いだ手から伝わる阿部の熱。右肩の冷たささえ忘れてしまいそうなくらい、身体が熱くなった。
辺りは大分暗くなったとはいえ、道端で阿部が手を繋いでくれるなんて珍しい事だった。
隣を見れば澄ました顔の阿部。照れ屋の阿部がこんな行動起こしといて、平常心でいられる訳ないんだけど…。
おかしいな、と思いながら阿部の横顔を見つめてると、
口元を歪め次第に頬を赤らめて、阿部は反対側を向いてしまった。

やっぱり、照れてたんだ。


「なーにカッコつけてんの。」

「つけてねぇよ。」


「うっそでー。照れてるくせに澄ました顔しちゃってさー。らしくないなーって思ってたんだよ。」

「……らしくねーのは、お前も同じだろ。遠慮なんてしやがって。」


赤い頬のまま、俺をチラリと見やると、またすぐに正面を向いてしまった。
阿部らしい言い方で言われて、
あぁ…俺が遠慮なんてしてたから阿部もらしくない行動取ってたんだ……、と気付かされた。


「……うん、ごめんね。」

「…おー。」


「じゃ、遠慮なく。」


ぴったりとくっついた阿部の肩に頭を寄せてみた。


「ばっ、…誰がそこまでっ…!……………まぁ、いいけど。」


一瞬焦った阿部だけど、回りをキョロキョロ見回し、誰もいない事を確認すると、俺のワガママを受け入れてくれた。
少しだけ傘を低くしたのは、阿部のささやかな抵抗だろうか。




「…あれ?雨止んだ?」

「マジ?」


傘をどけて見上げてみたけど、雨粒は落ちてこなかった。
それを確認して、阿部が傘を閉じる。
安心した反面、阿部と離れるのがちょっと淋しいなって思った。


「……ほら。」


………え?

差し出された手を茫然と眺める。


「ほら、帰らねぇの?」

「え、だって…もう雨止んだし…。もう、送ってもらう理由なんてないのに…。」


「俺が送りたいから言ってんの。ここまで来といて追い返すつもりかよ。」

「そ、そんなつもりじゃ…!」


「だから遠慮すんなって…。」


俺の手を強引に引っ張って歩き出す阿部。
阿部から積極的に手ぇ繋いでくれるなんて……。


「ほぉわあぁ……!」

「……なんつー声出してんの。」


阿部が呆れ顔で振り返る。


「だって、阿部が…手っ…!」

「…何だよ。イヤなら離すけど。」


興奮気味に答えると、阿部は照れを隠すように突き放した言い方をする。


「いやっ、……このままで、お願いしマス…。」


ぎゅっと手を握り返すと、阿部は満足そうに笑った。

ここまで色々してもらったから、家に着いて『はい、さよなら』って訳にはいかないよな…。


「…ね、阿部。家寄ってってよ。親帰ってきたら車で送るから。」

「いや、送ってもらう必要はねーよ。…でも家には寄らせて貰おうかな。じゃなきゃここまで来た意味ねーし。」



………ん?



……それは…?




「…もしかして、それが目的だった?」

「途中からは。さ、どうご奉仕してもらうかなー。」


何かを企んだ時のように阿部が楽しそうに笑う。



何だよ……、
こんな事なら、変に遠慮するんじゃなかった。

阿部から傘奪っちゃってもよかったんだ!




でも今日は阿部の優しさにたくさん助けられたから、
少しくらいなら労を労ってやるか…。



「…なんなりと。」



そう答えると、阿部は今日一番の笑顔を見せてくれた。

このやろう…。















ま、俺も嫌いじゃないけど。



END.

企画ボツネタ(__;)
あまりにもお題とかけはなれてしまったので…
もったいないからリサイクル←


09.02.22

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