るろうに剣心
8

見つめ合う二人に心地よい風が流れる。

お互いの髪がなびいた。

同時に剣心が微笑んで、

「薫殿…忘れているかも知れぬが、まだ洗濯の途中でござるよ。
お昼までにあと少しだから頑張って干すでござるよ。」

「あぁ!そうだった!」

剣心に言われなかったら、このまま幸せに酔いしれているとこだった。

さすがは剣心。家事に関しては完璧だ。

アタシは再び桶から洗濯物を取り出して笑顔で剣心に手渡した。

剣心も微笑んで受け取った。そしてそれを干しながら、

「拙者、今こうして薫殿と洗濯をするのが凄く幸せでござる。」

突然剣心が言う。

アタシは嬉しいけど剣心の唐突すぎる言葉が恥ずかしくも思えた。
「うん…。」

ただ頷く事しかできず、剣心にまた洗濯物を手渡す。

「この前、買い物の帰りにとある家の前を通ったでござる。
その家をチラッと見ると若い夫婦が、おそらく新婚でござろう。
仲むつましく二人で、こうして洗濯物を干していたでござる。
本当に幸せそうだった。」

そう言いながら、洗濯物を受け取り竿に干す。

アタシは剣心の言いたい事がなんとなく分かった。

またもや頷いて剣心に手渡す。

「だから拙者も薫殿と一緒にいつかこうして二人で幸せそうに干したいなと思ってた。なのに、」

最後の一枚を干し終える剣心。頬を赤く染めながらチラッこちらを見た。

恥ずかしくて思わず目をそらす。
言ってる剣心も恥ずかしいだろうが、聞いてるこっちも恥ずかしい。でも剣心の言葉が嬉しい。

「なのに?」

とりあえず、剣心に聞き返す。

剣心はハァーと、小さく溜め息をついて、空を仰いだ。

「どっかの誰かはもの凄くつまんなそうな顔でござったよ。」

ボソッと呟く剣心。

「だって……、」

折角の休みだったのに…、

とアタシが声に出す前に、

「でも、拙者はこうして薫殿と一緒にいるだけで充分幸せでござるよ。薫殿はどう思ってるか知らぬが……。」

襷掛けを外しながら剣心は意地悪そうに言った。

「そんなの!アタシだって剣心と……!!」
同じ…

と言いたいところだが止めた。
剣心の顔が微かにニヤケたのをアタシはしっかりと見た。

こいつは確信犯だ。

間違いなくアタシの気持ちを知ってるくせに、あえて知らないふりをしてる。そしてわざとアタシに言わせて自分は楽しんでる。

「拙者と、何でござるか…?」

余裕の笑みが剣心からうっすらと見える。とうにその先の言葉もちゃんと分かってて、それでもあえてアタシに言わす気だ。

だけど、そうさせるもんか!

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!