るろうに剣心
5
「拙者、こんなにも薫殿を傷つけていたとは知らなかった。いや、
分かる筈だったのに分かろうとしなかった…。」
ズキッ…
剣心の言葉の意味が今イチよくわかんない。けど、なんだか悲しい。
「薫殿の拙者に対しての気持ちは充分に知ってた。
薫殿が嬉しい位に伝えてくれてた。
だから拙者も薫殿に同じ位それに応えなくてはいけなかった。
だが拙者は……、」
剣心が一旦言葉を切る。
アタシは頬を少し熱くさせて、内心喜んでいた。
アタシの今までの気持ちは、剣心にとって迷惑では無かったんだ。
それだけでも嬉しかった。
「拙者の流浪人としての立場と、自信の無さが迷いとなって、
薫殿に対していつも曖昧な返事でしか応えなかった。」
ズキン…
今度は悲しい。
剣心にはまだ流浪人としての気持ちがあった。
いくら本音を話してくれたといっても、心を開いたといっても、剣心はまだどこか流浪人として、アタシ達とふれ合っていた。
正直、彼がただいまと言ったあの時から、もう彼の中でもアタシの中でも、彼の流浪人としての立場は無くなったんだと思ってた。
でも甘かった。そう簡単にはいかないみたい。
「それでも薫殿はいつも拙者に、その眩しい笑顔を向けてくれた。
拙者はそれがとても心地よくて、きっとこのままでも良いのだろう…。
と、甘い考えに流されていた。自分の迷いを断ち切る事も出来ず、それが結局、こうして薫殿を傷つけてしまってた。
本当に拙者は情けない男でござる。そして薫殿に対して申し訳ない気持ちで一杯でござる。
本来ならば、拙者はこうして薫殿に触れる資格など無いに等しいだろう。
だが、……。」
そう言って言葉を切る。
剣心の弱々しい声と共に、アタシを抱きしめるその手はどこか自信無さげだった。
彼の気持ちが今は本当に痛々しい程にわかる。
アタシを大事に思ってくれてるし、本当に申し訳ないと思う気持ちが伝わってくる。
でも、凄く自分を責めてる。そして凄く彼の自信の無さまでもが伝わってくる。
流浪人の自分は薫殿に触れてはいけない。
まるで本人に言われたかのように、その言葉がアタシの耳に残る。
今、アタシに伝わってくる剣心の心情。
少なからず今の剣心はそう思ってるに違いない。
それがアタシにとってとても悲しい。
自分が傷つくのも悲しいけど、剣心がこうして自分自身を咎めるのは好きじゃない。
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