るろうに剣心
3
「綾香…一つ、言っておきたい事と、聞きたい事があるでござる」
「それらはなんですか?」
「まず言っておきたい事は、拙者の前では『遊女』ではなく、『綾香』でいて欲しいでござる。…それ故、拙者の前では羽をのばして欲しいでござるよ」
剣心の目はしっかりと綾香をとらえていて、離さない。
そんな視線に綾香は息が詰まりそうな思いであった。
(今の今まで、ずっと『遊女』として生活していたのだから、そんな事をいきなり言われても無理だわ…。反射的に『遊女』として振る舞ってしまうんだもの…)
綾香は再び泣きたくなった。
そして、自分が一時でもいいから、普通の女として生活をしたいと願った。
遊女は皆、普通の女を夢見る。
だが、遊女として遊郭に来たからには、それは確実に叶わない事だ。
だから遊郭から逃げ出そうとする者さえいた。
しかし逃げようとしても、遊郭の街の道はくねくねとした造りで、中々逃げられないようになっている。
仮に逃げられたとしても、見つかり次第、遊郭に連れ戻されお咎めも受ける。
だから、遊女になったらそれっきりなのだ。
綾香はその事を考えると自然と表現が暗くなる。
まぁ、無理もないだろう。
剣心はそんな綾香に何も言えなかった。
剣心は何も言えなかったからこそ、自分が聞きたい事について話出す。
剣心は綾香の暗い表現を見たくなかったのだろう。
「それから、聞きたい事は…綾香の本当の気持ち、でござるよ」
「…私の、本当の気持ち……?」
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