時過ぎて神尾
→時過ぎしの続編。
負けた。俺達は負けたのだ。全国大会3回戦、不動峰vs四天宝寺戦。
深司は1年と戦った。俺と石田は3年と。結果はどっちも一緒で、棄権負け。
『神尾、くんっ』
「…みょうじ、」
屋上でやることもなく、暇潰しがてらに空を見上げていると、毎日聞いていたみょうじの声が聞こえてきた。空の青さに何だか涙が出そうで、後ろを振り向くことが出来なかった。
『全国大会、お疲れ様!』
「……3回戦負けだったけどな」
むくれたようにそう言えば、みょうじからの反応が無かった。ああ、帰ったのか。そうだよな、こんな落ち込んでる俺なんか見たくないよな。俺も屋上をあとにしようと振り向くと、みょうじがまだ立っていた。
ぐっ、と拳を握り、その拳を俺に向かって──
『神尾アキラのバカヤロー!』
「ごふっ!?」
力いっぱい殴ってきやがった。
避けきれなかった俺の右頬にみょうじの右手が直撃する。痛さでのけ反り、睨むような形でみょうじを見ると、みょうじは仁王立ちをして立っていた。
『神尾アキラ、私はそんな意気地無しに育てた覚えはない!』
「育ててもらった覚えもねぇよ」
『───私、神尾くんがテニスする姿が好き、』
「ッ!?」
『テニスに打ち込む姿が好き、』
「……みょうじ」
『楽しそうにテニスをする姿が好き。』
そういうみょうじはどこか悲しくとても愛おしかった。
俺を叱りながらも、自分がとても辛そうに言う彼女はとても小さく、か弱かった。
『だから、これが最後みたいにへこむなバカ!神尾くんと伊武くんにはまだ明日がある!なのに前に進むことをやめるな!』
叱るみょうじは泣きそうで。目に涙を溜めるみょうじは、ぐっ、と一生懸命堪えていた。
目の前の少女はとても小さいのだ。俺よりも、遥かに。それなのに、その俺に立ち向かうみょうじが誰よりも大きく見えた。
「ごめん、みょうじ…ごめん…
だから、泣くなよ…」
『無いて…ないっ』
「みょうじ、俺 来年は優勝する。来年は今年よりももっともっと強くなって…」
『うん』
「……お前に優勝を捧げてやるよ」
ぽかん、と意味が分からないような顔をしたみょうじを俺は優しくぎゅっ、と抱きしめた。
時が過ぎれば愛しさは狂おしく
気づけば俺はいつのまにかこんなにも君が愛おしくなっていた
(…と、いうことで来年は全国を全力で目指します。)
(何で知ってるんだよ深司)
(見てたからに決まってるだろ)
(自慢げにいうな)
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