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リップクリームの魔法丸井#



「…キスしたい。」

『は?』




私が自分の鏡を覗きながら渇いたピンク色の唇にレモンの匂いのするリップクリームを塗っているといきなり背後から湧いたブン太が口を開いた。

びっくりしたにも程がある。
だって、後ろにブン太がいるなんて全く知らなかったんだもん。つか、いきなり背後から湧くなよ。マジで驚くだろアホ豚。(これ聞かれたら頭を殴られるね、絶対。)


ってか、口を開いた初めの一言が“キスしたい”ってどうよ?

いつからブン太はこんな変態になったんだ。あれか。あれだよね。こんなになったのは変態詐欺師仁王雅治のせいだよね。あんにゃろ、今度逢ったらあの銀色の尻尾をねこそぎ引っこ抜いてやる。




『あの、ぶん…「したい」…』



にゃろ…っ!!絶対仁王雅治の尻尾を引っこ抜く!ってかそれだけじゃ済まさない!引っこ抜いて、幸村に献上してやる。んでもって、ブン太をこんな奴にした仁王雅治を処罰してもらおう!




「…なまえ」




そういいながら、ブン太は僕を背後から抱きしめる。

え、これやばくない?

このまま行ったらうん、……キスされちゃうんじゃないですか、コレ!?

いやいやいやっ!一応ブン太と付き合ってるから別に問題は無いんですけどね!!キスくらい何度かしたことありますけどね、これはやばくないですか?

させてもいいんだけど、何かね危ないんですけど。何だろ、ホラ……“喰っちゃうぞー!”的なオーラがブン太から発せられてるんですけど!?




「なあ…、なまえ」

『ちょ、ブン太ストップストップっ!』




ちゅ、とブン太が優しく僕の首筋に口づけを落とす。ぎゅう。その度にブン太の抱きしめる力が強くなる。

ちょ…マジやべぇっ
洒落にならない、ほんっと!
喰われちゃうよ、私!?




『ぶん、た……っ』

「なまえ、したい…」




何 を で す か ! ?

いけない単語に聞こえるのは私の気のせいですか。私の耳がおかしいんですか。それとも私の思考が悪いんですか。

仁王雅治が相当憎い。かなり憎いんですけど。


くるりと私の体制を自分に向かわせるようにしたブン太はもう一度同じように首にちゅっ、と口づけをする。しかし、今度は首筋に舌を這わせる。

やばい。ほんっとやばい。




『ブン…た、』




いつの間にかブン太によって黒板に追い詰められた。私は右に行こうにも、ブン太の左手が邪魔だし、左に行こうにもブン太の右腕が邪魔で動けない。要するに逃げられない。

やばい。やばいやばいやばいっ

ってか私、今日何回心の中で“やばい”って言いました?




「してもいいだろぃ?なぁ?」

『しても……、って…
もう逃げられないじゃないですか』



夕暮れのオレンジが教室に差し込み、黄土色に似た茶色の机に反射している。


ぺた、とブン太の右手が僕の左頬を触る。私の低温の頬とブン太の無駄に暖かい高温が交わる。

スローモーションのようなブン太の顔が一瞬左側に傾き、私の唇を食べるかのように唇を重ね合わせる。ちゅく。ん、 と卑猥な音が教室に響く。




「やっぱ、なまえ可愛い…」

『っ、のやろ…!』




離れた唇からの言葉にいらっとして愚痴をこぼすけど身体に力が入らず、いまだ身体はブン太にもたれ掛かったまま。

毒づくので精一杯だ。


こいつ、絶対力が戻ったら殴り飛ばす…!


 ニッ と笑ったブン太に仁王雅治程じゃないけど殺意が軽く湧いた。




『いきなりキスしたいとかどうしたのさ…』




“え、”と面食らったような顔を一瞬して、私を抱きしめているブン太が頭をぽりぽりと掻いた。

私、何かまずいことでも聞いた? 聞いてないよね? ってか普通に聞いてもいいことだよね!




「なまえがリップ塗ってたたからキスしたくなった」

『……は?』

「ほら、リップ塗ってる姿見てるとキスしたくなるって言うだろぃ?」










(もうブン太の目の前でリップ塗らない。)
(えー)
(可愛く言っても駄目だからね)
(そそられるのに?)
(私、喰われるかと思ったよ、ほんとに。)
(…喰ってもいい?)
(しね)



後日、仁王雅治が幸村によって天誅を喰らったことは言うまでもない。



(ブン太に変なこと教えやがって…!


幸村…様に後からお菓子を差し上げなきゃ)




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男は皆獣なんですよ、って話






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