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短編
傍観者志望※バク盗
※バク獏前提









 ――おやすみの時間だぜ、宿主。今日は楽しい事あったか?
 ――学校はいつも通りだったよ。遊戯くんと城之内くんが決闘して、また城之内くんが負けたんだ。ボクともやろうって城之内くんに言ったんだけど、ボクのデッキは気味が悪いから嫌なんだって。でも、ああ言われたら余計にやりたくなっちゃうよね。
 ――で、結局やったのか?
 ――ううん。チャイムが鳴って、そこでおしまい。
 ――根性あるんだか臆病なんだかよくわかんねぇ奴だな。
 ――きっとどっちもだよ。……ところで、ねぇお前。
 ――なんだ?
 ――お前は、遊戯くんを消したいの?
 ――……なんでそんな事、訊くんだよ?いきなりな質問じゃねぇか。
 ――あの人が言ってたんだ。
 ――『あの人』?
 ――うん。マリクみたいな肌の色で、顔に傷のある、赤い服を着た――……






 千年輪に宿る闇が、今日も宿主である獏良了にちょっかいを出してやがる。
 表で宿主が眠る前の僅かな時間。その時間になると、アイツはいつもこうして宿主を中に引きずり込んではこっちのベッドに寝かしつけ、そこに腰を掛けて楽しそうに会話を繰り広げる。オレはそれを、暗闇に身を潜めていつも見ていた。遠くで見ている分には、同じ綺麗な顔の少年二人が会話している光景は目の保養に思えなくもない。片方は見た目に相応しくない、凶悪な中身を持っている事を忘れはしないが。
 アイツは宿主に甘い。
 わざわざここに引っ張り込まなくても、表で使う時だけ使えばいいんだ。どうせ表に出ればここでの記憶もなくなるってのに、なんだって毎日毎日飽きもせずああやって寝かしつけるんだ?
 その態度にしたって、そのうち赤ちゃん言葉でも使い始めるんじゃねぇかってくらい甘い。オレが関わってた時はツンツンしてた宿主も、『あの時』の記憶がない今となっては楽しそうにアイツと会話しやがる。男のくせに可愛い笑顔も相まって、腑に落ちねぇ。
 オレと宿主が会話をする事については、何故かアイツが許そうとしない。そもそも、こうして千年輪と意識が離れたのは最近の事だから無理もないが、つい昨日まで、宿主はオレの存在すら知らなかった。アイツが表にいる時、たまたま中で目覚めた宿主がオレを見つけ出してしまったから"ああいう話"を吹き込んでやったのは、アイツに対するちょっとした嫌がらせと、今の宿主がどういう立場にいるか少しだけヒントを与えてやったつもりだった。

 奴が宿主の頭を撫で始める。
 寝かしつける合図だ。いつもより会話時間が短かったように思う。それにしても無理やり寝かしつける事だって出来るってのに、あれじゃまるでママゴト遊びじゃねぇか。ほのぼのとした光景に、思わずオレとアイツの目的を忘れそうになる。
 宿主を寝かしつけた千年輪に宿る闇は、しばらくその寝顔を見つめた後、オレの方にゆっくりと歩いてくる。

「よぉ、盗賊」
 相変わらず、ひょろいクセに偉そうな野郎だ。宿主に向けている笑顔を少しでもオレに向けてくれりゃ少しは優しくしてやろうかと思うのに、オレの前に立つコイツはいつも蟻んこでも眺めるような見下した目付きだ。オレがいなければ存在すらしなかったってのに、こうして意識が分離してから態度がデケぇ。オレも負けじと、皮肉たっぷりに答える。
「今日は随分早く寝かしつけたじゃねぇか。ママゴトごっこは満足したか?」
「ああ。今日は早めに切り上げた」
 一息ついて言葉を続ける。
「何せこれからオレがする事、宿主には見せたくねぇんだよなぁ」
「はァ?」
 意味のわからない言葉に思いっきり片眉を吊り上げて小ばかにした返事をすると、奴の首にかかった千年輪が突然光った。やばい、と思った時にはもう遅く、オレの身体は強風に煽られたように吹っ飛び、石の壁にブチ当たって強かに背中と後頭部を打ちつける。ぐらりと脳が揺れたが、何とか頭を振って目の前に立つ闇を睨んだ。
「な、何だってんだよ……」
 オレを見下すコイツは汚いものでも見るように顔を歪ませ、目は激昂してギラついている。これは超怒ってるという事だ。宿主には絶対見せないツラだと思う。これがあの可愛らしい顔の宿主と同じツラだとはとても信じられねぇ。丸っこい雰囲気の宿主と違い、コイツからは棘しか感じられない。
「勝手に宿主に変なコト吹き込んでんじゃねぇよ」
「ああ?」
「オレの目的をわざわざ宿主に言う必要なんざねぇ」
 ああ、なんだ。その事か。オレが宿主と会話して、余計な事を吹き込んだから怒っているらしい。だったら口で注意すりゃいいのに、コイツは見た目によらず気性が荒い。まぁ、仮の姿が獏良了なだけで、中身は憎悪が詰まった闇なわけだが。
 コイツと分離してからというもの、オレの憎悪は全てコイツが持っていってしまったように思う。お陰でオレはこんな理不尽な仕打ちをいきなり受けても、いきなりコイツに掴みかかったりしないわけだ。そう、歳相応の落ち着きを手に入れた。
 …………んなワケあるか、クソが!!

「アイツだって舞台を作る為に一役買ってんだ、知る権利はあんだろうが!」
 掴みかかってやろうとして立ち上がりかけるが、やはり千年宝物の理不尽な力で四肢を壁に縫い付けられてしまう。ホント汚ねぇよ、コレ。男なら自前の力で何とかしろってんだ。いや。コイツは人間の姿が偽物で、こっちが本体なのか。
「ねぇよ」
 そしてきっぱりと言い切りやがる。
「宿主に知る権利があったとしても、テメェがそれを言う権利はねぇっつってんだよ。勝手なコトしやがって、ここで死ぬか!?ああ!?」
 コイツも頭に血が上り始めたのか、怒声を飛ばしながら、オレの顎を掴んで後頭部を壁に押し付ける。壁に擦れた部分がハゲたらコイツのせいだ。掴む指がめりめりと顎に食い込んで骨を軋ませる。ひょろいクセに、バカ力を出しやがって……!
「ハッ、オレが死んだら、テメェはどうなるだろうなぁ……?!」
「……チッ」
 闇は忌々しげに舌を打つ。オレが死んだらコイツはどうなるか、実はオレは本当に知らねぇが、コイツは何か知っているんだろう。オレが死んだらコイツにも何かしらの影響があるらしい。一つ、いい事を知った。
 拘束が解かれ、壁に寄りかかりながらズルズルとその場に崩れ落ちる。とんでもねぇ圧力で押され続けて骨がイカレるかと思った。ここでは精神体の状態だからちょっとくらい身体がイカれてもすぐに治りはするんだが、気持ちのいいもんじゃねぇ。

 闇は相変わらずふてくされたツラでオレを見下している。ここは大人のオレだ。煽るようなマネはしねぇ。いくら死なないからって、一方的に痛めつけられるのもゴメンだ。もうこっちからも手出しはしないアピールとして、胡坐をかいた膝に手を置く。
「テメェは宿主を巻き込みてぇのか巻き込みたくねぇのか、ハッキリしろってんだ」
「巻き込むつもりはねぇ。もっとも、使えるところは使わせてもらうがな」
「それで中ではママゴトごっこか?何がしてぇんだよテメェは」
「オレが何しようとテメェには関係ねぇ」
「あーそうかよ。宿主も可哀想になぁ!わけもわかんねーでこんな事に巻き込まれちまって」
「知った方がいいとでも思ってんのか?」
 闇は目を眇めて咎めるようにオレを睨む。
「あー……」
 そう言われると、よくわからねぇ。もしオレが宿主なら、何も知らないのは気分が悪い。他人の面倒ごとに巻き込まれるのもゴメンだ。だが、獏良了ならどう思うだろうか。遊戯は宿主にとっては友人のはずだ。うーむ……

「どちらにせよ、テメェは余計な事を宿主に吹き込んだ。罰を与えなきゃならねぇよなぁ?」
 考え込んでる最中に話を戻される。どこか楽しそうに笑う様に、目を奪われる。いつもこうして笑ってりゃ……いや待てよ。罰を与えるって?
「ば、罰って何だよ」
「テメェは痛みに強い。そこは評価してやるよ。だからちょっとくらい痛い思いをしたって反省しないだろうし、代わりに最高の屈辱を与えてやるよ」
「なんだよ、それ」
 また千年輪でおかしな罰を与えようってのか?やや身体を引くと、コイツはオレにずいと近付く。この空間でコイツから逃げられないのはわかりきっているが、とんずらしたい気分だ。嫌な予感がする。
「言っただろ?これからオレがする事、宿主には見せたくねぇとな」
 闇はくくっと嗤う。獣じみて光った瞳が至近距離でオレの目を覗く。宿主と同じ顔なのに凶悪さがだだ漏れの表情に、浅黒いオレの肌に触れる白い指先に、血の気を感じない渇いた唇を舐める赤い舌に、思わず魅入る。
 オレが徹底的に抵抗できないのは、コイツの見た目のせいだ。遠くから見ている分には白くて華奢で脆そうなのに、接してみるとこんなに禍々しい。宿主は触れたら壊れてしまいそうな儚げで頼りない繊細さを持っているが、コイツには繊細さの代わりに強烈な毒々しさがある。そのどちらも全く違う性質なのに、触れてはならない危うさが酷く蠱惑的に思えた。ここには宝石や金目のものは何もないが、コイツと宿主が接している姿を遠くから眺めているだけで、今のオレは満足だったのかもしれねぇ……
「お前、女役はやった事ねぇだろ。お前への罰とオレの憂さ晴らしが出来て一石二鳥だ。宿主はなかなか落とすのが困難ときてやがるし、今はテメェで遊んでやるよ」
 ほら見ろ。だから遠くから見ているだけでよかったんだ。



END





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