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一瞬の失恋と (シカマル)


「ナルトは苦手だって、言ってなかったか?」

「苦手だよ、今も、ずっと」


そう言いながら、ユメは騒々しく駆けていく万年ドベと呼ばれていた英雄を見つめる。
里の英雄とはなっても、中身はやっぱり変わらなくて。
さっきもすげー馬鹿な悪ふざけをして春野に殴られてやがった。
見捨てておけば良いにも関わらず、ユメが手を貸して、ついでにと、目の上の青タンを治療してやっていた。

アカデミーの頃からユメはナルトが苦手だと言っていたから、俺は少し意外だった。

向こうに行ったナルトが振り返って手を振る。
なんか叫んでるのはユメへの礼か。

それに、心なしか柔らかい顔で手を振り返すユメ。


「なんか、納得いかねー」

「何が?あたし?
ナルトは苦手だよ、今も変わらず」

「じゃあ何か?一応英雄様だから?」

聞いておきながら、こいつがそういう奴じゃないのは知ってるし、まさかなと付け加える。


「あたし、昔から苦手とは言ったけど、嫌いとは言ってないよ」

「似たようなモンだろ」

「全然違う!」


冷たい目線を俺に向けて、ユメが歩き出した。
これからイノんちの花屋に寄って、紅先生の家に顔を出す。


「苦手ってのは関わりたくねーってことだろ?
それは俺も同感だな。あんなバカには関わるだけ損だし」

「それも…何か違うかな…。
うん、あたしの苦手と、シカマルの苦手が同じ意味を持つことはないと思う。てか、同じだったらむしろ困る」

「はぁ?」

「まぁいいじゃん、何でも」


勝手に話を切り上げて、商店街のアーケードをくぐって行くユメの後を追う。

ま、なんだかんだでおれもナルトとは腐れ縁と言えなくもない間柄だ。
同期というだけで手を焼かされるのがナルトという存在。
こいつも苦手とはいえ慣れもあるだろう。そういう変化かもしれないな、と考えをまとめた時、ユメが誰かに手を振った。


「お、おはよ…ユメちゃん…。あ、と、シカマル…くん」

「おはよう、ヒナタ」

「うっす」


顔馴染みに少し足を止めて挨拶を交わす。
が、それも一瞬で。


「また今度、ゆっくり甘味でも食べよ、みんな誘ってさ」

「う、うん、またね…」


じゃあね、と挨拶をそこそこに手を振ったユメに違和感を覚えた。
ヒナタと別れて、また商店街を進むユメの背中に声を掛けてみる。


「別に急がなくてもいいぞ?」

「急いでないよ?全然?」

「そ、そうか?」


同じ班のイノなんかは、同期やら知り合いが通るたびに話し込むのが常だから、俺の感覚がおかしいのか。
それでも、こんなあっさりしたやり取りはユメでも珍しい気がしたのだが。

「なんかヒナタとあったか?」

「別に」

「ふーん…」

なら、俺と二人で歩いているのを誤解されたくないとか?
それも今更だが。


「…………最悪」

「は?何が?」

「シカマル」

「俺!?」


ユメがおもむろに立ち止まって振り返り。冷たい目線どころじゃない、睨み付けて見上げてきた。
すげー怖いんすけど。
しかし、溜め息をひとつ吐き、ユメは仕方がないかと溢して再び歩き始める。


「…あたし、ヒナタも苦手なの」

「え、初耳」

「初めて言ったもの」

「仲、悪くなかったよな?」

「だから、嫌いじゃないの。苦手なの」

「またそれか。意味わかんねー…」


「あたしもね、しばらく意味わかんなかった。
けど、わかったら超単純だった」

「俺は理解出来る気がしねーですけど」

「わかるよ、シカマルにも。
同じ気持ちは理解出来なくても、シカマルならきっとわかってくれる」

「それは、俺にわかって欲しいって捉えてオッケー?」

「子供扱いすんな、バカ」


昔から、俺が妹みたいに扱うと、同い年なのに、と怒るユメ。
いつもお前が甘えてくるから、そう扱って甘やかすんだってちゃんと理解しているか?


「…まぁ…でも、シカマルだからね。
隠してても仕方がないし」

「えらい勿体ぶってんな」

「そりゃ、ね。あたしも一応乙女だし」

「ぶっ」

「笑うな、バカ」


まぁな。
もう子供じゃねーもんな、俺もお前も。


「あたし、ヒナタが怖いのよ」

「はぁあ!?」

「声でかい!」

「いや、だって…」


ヒナタが怖い?
ヒナタの人間性として怖いなんて絶対有り得ないし、
ユメはくの一としてもヒナタとは実力に差がある。
ヒナタだって強くなってはいるが、その分こいつも強くなっている。追い付かれるとは考えにくい。
春野ほどじゃないにしろ、医療忍術も会得したし、ヒナタを怖がる理由が全く思いつかない。


「ヒナタってさ、時々凄く強いじゃない」

「あー…ナルトがらみんときな?」

「そ。真っ直ぐで、ひたむきで、強くて、…本当に素直で」

「突っ走るとも言うが…」

「それがね、きっとあたしは羨ましいの」


怖いが羨ましいってすり替わるのはおかしくねぇ?


「いやいや、意味わかんねーし」

「あたしさ、好きだったみたい。
ずっとずっと前から、ナルトのこと」

「あー…そ…………え?何…?」

「あたし、ナルトが好きらしいよ。
だから、素直に気持ちを出せるヒナタに嫉妬してる。最低でしょ?」


俺は理解しようと頭を動かすけど、
ユメがナルトをってところでそれ以上考えることを頭が拒否するために軽くパニックになる。


「ナルト…?好き?え、ずっと?
苦手って…」

言ってなかったっけ?

「ナルトを見てると苦しかった。
もどかしくて…見てられなかった。
前はそれを、同情とか哀れみだと思ってたんだけど、…笑い掛けてくれて嬉しいって…それは、恋っていうんでしょう?」

「…………」

「サクラやイノがサスケにキャーキャー言ってたから、あれとは違うって、恋とは気付かなかったけど。
今は、恋だったってわかるよ。
好きだから、苦手だった」

「……今も、か?」

「今も変わらず苦手」

それは、変わらずに好きってことか。


「でも。昔より、苦しいかな」

だって、ナルトはもう強いからあたしが力になることも出来ないし、そもそもナルトはサクラが好きだし、ヒナタもずっとあんなにひたむきに片想いしてる。
あたしは、妬むだけしか出来ない女だし、素直に好きだと言うつもりもない。と自嘲気味に捲し立てるユメの横顔。


「あたしは、ナルトに相応しくないから、…そんな自分が嫌で。
ヒナタはそれで努力して、あんなに強くなったけど。あたしは、苦しいのを抱えてナルトの幸せを祈るって決めたんだ。
…それでも、やっぱり、ヒナタが羨ましいんだけど」

「お前…」

「ナルトも、もしかしたら、サクラのこと…こんな風に苦しいのかな」

「あんなバカのことは知らねーけどよ。
……俺は、苦しいぜ。お前と同じで」

「…紅…先生?」

「バカか。人妻だろ。
俺は、お前の話聞いて、苦しくて死にそうになった。
お前のせいで」

「え、」

おろおろと、何度もゴメンと呟いて泣きそうな顔をする。バカだなぁと思う。
意味わかってないよなぁ。


「俺は、お前を思うと苦しかった。
でも、お前がナルトを好きだなんて知らなかったから、知った今は、苦しいなんてもんじゃねぇ」

「…シカ、マル…」

「苦しくて、むかつく。
なんでお前がそんな苦しい思いをしなきゃなんねーんだ。
ナルトのバカをぶっ飛ばしてきたいくらいにな」

「ちょ…」

「わかってる。
そんなこと意味ねーって。
ただ、俺の苦しさは、消せないけど、減らせるんだ」

「ど、どうやって?」

「ユメなら、出来る」


俺は、ユメの手を取る。


「そんで、俺なら、いつかお前の苦しさを消してやれる」


今度は俺が歩みを止めて引き留めた。


「ほんと、シカマルは…」


ぼそりと、下を向いて言うので聞こえない。


「あたしのこと、理解するのも早くて…ずるくて…」

「あ?」


赤い顔して顔を上げたユメは、同時に手を痛いほど握ってきやがった。


「あたしなら、シカマルの苦しいの、無くせるの?」

「お前じゃなきゃ駄目だ」

「………あたし、ナルトのこと、好きで苦しいけど。シカマルがこんな苦しい、同じ思いをするのは、嫌」


そうだろうな。優しいお前だから。


「俺が必ず、サクラやヒナタ以上に幸せにしてやるから」

「シカマル、
きっとシカマルがそう言ってくれるだけで…あたしはサクラやヒナタより幸せだよ」

「言ってくれるだけ?違ーよ、
必ず言わせてやる。誰より幸せだと思うってな」

「…うん、シカマルとなら、きっと。いつか本当にそう思えるだろうな」


イノんちに向かって歩いていく。

俺は今日この道で、一瞬、想定外の失恋をして、
これから少しずつ恋を実らせていく。

紅先生にしっかり宣言して、
早いとこ俺の彼女だって自覚を持たせねーと。



本当は嘘だ。
恋の苦しさを癒せるのは、誰にだって無理なことで、その逆に誰にだって出来ることだ。

ユメも、たぶんわかってる。

わかっていて、俺を選んだ。


なら、俺がすべきことは、
お前を誰よりも幸せにすることだ。


幸せになって、
いつかバカな英雄が幸せを手にする時に、心から祝福してやろうな。





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