short
一人旅 中
クラウドの故郷、ニブルヘイムには、なにもなかった。
神羅屋敷や街並みはあった。
でも、それらは私が望んでいるものではない。
‥‥私は何を望んでいる?
神羅屋敷の中。
研究所の書庫は本で埋まっている状態で、奥へは進めない。
セフィロスが、セフィロスじゃなくなった場所だ。
魔晄ポッドのガラスにはザックスのだろう字が刻まれていて、もうひとつは察するにクラウドがいたところ。
クラウドが運命の人形になってしまった場所。
でも、何もない。
神羅屋敷を出る間際、外に人の気配がした。
一般人のものではない場数を踏んでいる者の気配だった。
私は少しだけ意外に思いつつも、見えないながらもこちらの様子を窺っているだろう外の人間にわかるように大きくため息をつく。
重い扉を開いた向こうに、レノが立っていた。
「よう、奇遇だな、と」
しらじらしく手を挙げて挨拶するレノ。
「‥なにしてんの?」
タークスの制服であるスーツではなく、ジーパンにシャツという私とあまり変わらない格好をしていた。
「なにって、一人旅だぞ、と?」
やっぱり意外だ。
いつの間にレノはこんなに強くなったのだろう。
気配が違う。昔のゆるかったレノと違う。昔のレノは、こんなに張りつめた気配で警戒したりしなかった。
「嘘ばっかり」
「信じないなら、『これ以上先には行かせない』って言ってもいいんだぞ」
「ルーファウスの指示?」
「いや、俺の意思。
‥ま。お前が素直に引き下がるとも思えないし、この先には『お前は一人旅、俺も一人旅』ってことで一緒に行かねえ?」
「それは一人旅とは言わないわよ」
「それならお前もだな。
そのナイフはザックスの。一部のマテリアは、神羅にいた頃のクラウドの。そんで、そのピアスはセフィロスのもん、だろ?」
「‥だったら?」
「睨むなよ、と。
お前が一人であいつらみんな背負わなくていいんだぞ、と。俺にも分けてくれよ。あいつらとの思い出があるのは俺も同じだ。だから、止めない。一緒に行きたい」
意外だ、と思う。
こんなに真剣な目を、レノがするなんて。いつの間に。
断るすべが、ないじゃないか。
エアリスの眠るという忘らるる都へ行っても、やっぱり何もなかった。
「‥ないね、なにも」
「お前は‥
‥んー、なんでもねー」
「なに?」
「なんでもねえって」
「気になる」
「あー‥。‥んじゃー‥、お前、タークス戻ってこねぇの?
ツォンも、あとルーファウスも待ってるぜ?」
その質問は、レノが最初言い出せなかったものとは違うものだとわかったけれど、私にこれ以上強く聞くつもりもなかった。
「私はあの戦いの後、潜入先に残って‥科学部門に残って復興を手伝うって決めた。その時タークスとも離れたつもりだったんだけど?」
「ツォンはお前が戻ってくるもんだと思ってたぜ?」
「辞表でも出せばいいのかしら」
「‥‥‥」
レノは、辞表なんて大袈裟な、とか。そんな風に笑って過ごそうとして失敗したみたいな顔をして、私と目があったら苦々しく逸らされた。
「星痕も、結局クラウドが解決したわ。
神羅の持つデータも実績も、何も役に立たなかった。‥私も。私にできることはもう何もないの」
「でも!いてくれたらいい」
「タークスにもう人員は必要ないわ」
「いてくれるだけでいいんだ。タークスじゃなくたっていい。俺は、それで嬉しい」
「‥ははっ‥。‥ありがと。レノ」
私は、この旅で探してるの。
でも。見つからない。
もしかしたら、この世界のどこにもないかもしれない。
‥その時は。
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