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g.short
この世界の永遠を望んだ 後
注※超ファンタジー







『僕は、人になりたいんだ』

『兄様?私達は人間ではないのですか?』

『…………さぁ、どうだろうね?
人間に似た何か、かな?
きみは、人でありたいかい?
…僕は、人になりたい』

『私は、人間でも、そうじゃなくても構いません。
兄様がいますから』

『ありがとう。
でも、きみは僕の様になっては駄目だ』

『どうして…そんなこと…』

『いいね?絶対に、僕の様にはならないと約束してくれ』




兄様が理想の為に多くの人間の命を奪ったのは、まだ私が何も知らなかった頃だった。


何も知らなかった。


人間が老いていくことも、
弱い生き物だということも、
特別な力を持たないことも、
寿命というものがあり、
自然の流れとして死を迎えることも。

そして、私達の力で、本当に簡単に、
彼らの命を奪えるのだということも。

私は露ほども知らなかったのだ。



自分が人間と違うものだと知った時、いや、それを実感した時、兄様の言葉を思い出した。


『僕は、人になりたい』

『きみは、人でありたいかい?』





(私も、人になりたいです)




答えが見付かった時、
人になりたかった兄様は、
もうとっくに消えていなくなってしまっていた。

兄様は、人間のように短い時を生きたのだ。
生きないという選択で人間になろうとしたのかもしれない。



『きみは僕の様になっては駄目だ』



その言葉だけを胸に、
私は、永い時を生きてきた。

















春の匂いがする。


「うぇっくしっ!!」

「なに?銀さん花粉症?」

「いや?どこぞの誰かが俺の噂を…っぶしっ!!」


寒かった昨日が嘘の様な暖かな日。
陽気に誘われてフラりと街に出たくなった。
上着を羽織って玄関に向かうと、もう玄関には銀さんが戸を開けて待っていてくれた。
一緒に出かけるなんて言ってなかったのに、当たり前みたいな顔をして。


「それ、花粉症だよ…」

「だって今までは大丈夫だったぜ?」

「そういうもんらしいよ?ある年突然なるもんなんだって」

「へーぇ?
んじゃ、俺より長生きしてる夢乃はもっと花粉症になってて不思議じゃないってことになるな?」

「そうだね。でも、私は平気だなぁ」

「ほらみろ。それ都市伝説とかのよくあるデマだって。
その辺のじーさんばーさん見てみろよ。全然花粉症っぽくねーよ?」

「だけど!デマじゃないよ!…たぶん。
そりゃ、私は長生きしてるけどさ、
なんてゆーか…私、不老だったし?
基本的に病気とかにも強いからねぇ。ほら、昔の人は強いんだよ」

「なんじゃそら。反則か。
だいたいさぁ?正確にはいくつな訳?仙人みたいなもんですって言われても、ぱっと見で十代後半だろ?
信じられないよなぁ。不老不死?
こうして歩いてっと良くて兄妹、悪けりゃ犯罪じゃないかって心配されるし」

こうして、手を繋いで歩く。
今は当たり前みたいなことだけど、
この当たり前が、私には奇跡のよう。自分には不釣り合いだと、何度も何度も離そうとした温かい手。
彼はそれでも、ずっと離さないでいてくれた。


「私…いくつなんだろう。
とてもじゃないけど数えられないし、忘れちゃった。
………ごめんね、銀さん。一緒に歳…取れなくて」

「ばーか、いーんだよ。
俺がヨボヨボになっても、お前は若いままなんだろ?ジジイになっても、こうして手ェ繋いで歩いて、周りのジジイどもの羨望の的になってやるから」


この人がおじいさんになっても。
隣にいて良いと言ってくれる。

不老不死だと言われていた。
その通りに、私の体は生まれて十数年で成長を止めた。
ただし、不老だけど不死じゃないって知ったのは、同じだった兄様が死んだ時。彼は、人間に殺されたのだ。その行いから人間の敵として。
最期は光になって消えてなくなった。

私もきっと消えるだろう。近い未来に。
こんなに永く生きたんだ。私に残された時間はきっと少ない。銀さんと出会う前までは、望んでさえいたことなのに、今は怖くて仕方ない。
それでも、確信があった。

私の寿命は近い。

いつか突然消えてしまうかもしれない私には、銀さんのそばにいる資格がないと思った。
だけど、銀さんは言ってくれた。
それは当たり前のことだろ。と。


「銀さんがお爺ちゃんになるの、見たいなぁ。見れるかな…」

「……あのな、毎度言ってっけど、
人間いつか死んじゃうの。死なない奴はいないの。消えるってゆーけど、お前も何が違うの?
俺だって今日以降百年以内にゃ死ぬ。いつだかわかんねーし選べねぇ。怖いけど、怖がってらんねーの。
だって、もったいねぇだろ。今こうしてお前と歩いてられんだ。噛み締めねぇと」

「……うん」

「だいたいなぁ、何百年?何千年?生きてきたかも覚えてないっつぅ残念な時間感覚のくせして、寿命がそろそろだなんて、一体お前の「そろそろ」はあと何百年だっつぅ話だよ。
だから諦めて、お前はヨボヨボの俺の隣にいるんだ。頼むぜ?介護は任せたからな?散々ワガママ言って手間掛けさせてやるし、ボケ倒してやる。怖がる暇なんかないから覚悟しとけ」

「頑張ります。介護士の資格取っとこうかな、今のうち」

「…………お前って…真面目だよな…」


噛み締める。
何を?とは聞かない。
それはきっと、銀さんには銀さんの正解があって、私には私の正解があるものだと思うから。

だから。黙って彼の手を握り直した。


「うぉ」

「わ、すごい風!」

立ち止まって風の吹き抜けた方を見上げると、銀さんは何も言わずに待っていてくれる。

「言ったことあったっけ?
私には兄がいたの。昔。
何人かいたけど、その一人が特別な人でね。風の化身みたいな人だった。
唯一、出来損ないって言われてた私に、妹として接してくれた人だったよ。
彼がね、教えてくれたんだ。人間は、祈る生き物なんだって」

「…祈る、…か」

兄様は風の中で一体何を祈っていたのだろう。

「だからかな。風にお祈りしたら、きっと兄様が聞いてくれるって、思っちゃうの」

「聞くだけ?叶えてくれねーの!?」

「流れ星じゃないんだから当然です。…それでもいいと思うのは、おかしいのかな?
だけど、お祈りって叶えてもらうものじゃなくて、聞いてもらうものだって私は思う。
叶う叶わないじゃなくて、祈ることに意味がある。
祈る、その想いが力になるんだと思う。その力で祈りを叶える。自分の力で。だから、人間はすごいんだよ」

「…そうか?
人間なんてそんな大したもんでもないと思うがね。ただ神頼み、他人頼みしてるだけじゃね?
んで?お兄様が風の化身様なら、お前は何の化身だよ?雨か?雪か?ん?」

「あ、信じてないな?面白がってるでしょ!」

「信じてますよー、いつも俺は」

「うそ!にやにやしてる!」

「してねーって、もともとこういう顔ですぅ」

「もー!」

「ぶっわ、いてっ、ゴミ入った!!
またかよ!最近多過ぎだっつの!」

唐突に吹いた風に、
目を抑える銀さん。

ほらね、きっと兄様が怒ったんだよ。

…とはいえ、繋いでいた手を離して近寄って心配した。けど、銀さんが大丈夫だって言うので、また手を繋いで歩き出す。


「なぁ、その、風の化身っつー兄さん、性格悪かったりする?」

「あー…毒舌で有名だった、かな?」

「やっぱりー?銀さん、なんかそんな気がしちゃった」

「でも、私には優しすぎる人だった」

「そんな気ぃもしたわー」

「ねぇ、銀さん、笑わないでよ?」

「おー」

「私ね、朝の化身なんだ」

「なんだって?」

「朝。朝の…妖精なんだよ」

「妖精は嘘だろ。妖精ってほど可憐かよ」

「うわ、ひど!」

「…じゃー、俺は朝を祈るよ」

「そしたら、私が聞いてあげる」

「違う違う。朝に、じゃなくて、朝を、祈る」

「朝を、?」

「ああ、朝を、祈る」

「…そっか」

「俺の言ってる違いわかんの?」

「わかんない。でも、嬉しいと思って良いのかな?って気はした」

「あっそ。
そういう馬鹿なのかなんなのかケロっとしたとこ、朝っぽいかもなーお前」

「それ褒めてないよね!?」

「さーどーかなー?」

「うぅ、ひどい…」

「でもま、朝でよかったよ」

「どうして?」

「いつかお前が消えても、毎日会える」


今日もまた、銀さんと過ごせる幸せを感じる朝。
怖いよ。
消えることも、銀さんを失うことも。
銀さんを失ったらきっと、私は朝を恨めしく思うだろう。
朝なんか来なきゃいい、と。
私も、一緒に消えてしまえたらよかったのに、と。

でも、銀さんは、朝の中に私を見付けてくれるんだね。
私が、兄様を風の中に感じる様に。
なら、私も、
一緒に作ったすべての思い出の中に、銀さんを見付けたい。

怖がっていたら、きっと見えないね。
怖いけど、怖がってられない。




ねぇ、兄様、
私は人間になれたでしょうか?



永く永く生きて、

私は初めて、失いたくない時間を。

失いたくない、相手を。

つまりは、愛を知りました。



そして、今、初めて、

私は永遠を切望しているのです。




2013.07.3.

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