[携帯モード] [URL送信]

g.short
サヨナラくらい言わせて (沖田)



「副長、今回の件、私に任せてもらえませんか?」


あいつがそんなことを言ったから。










「いつもなら、お前に任せても問題なかった。が、今回は特別だ。高杉が相手だからな。
今回は組全部を動かす。お前一人には任せられない」

「なら、せめて高杉の確保だけで構いません!どうか私に!」


いつものテキトーさ加減はどこ行きやがった。
らしくねェ。と思う裏で、やっぱりな。と思った。
それは俺だけじゃなくて。土方さんも同じだったんだろう。


「わかった」

認めた土方さんの顔は苦々しく歪んでいた。
不細工な面。いつもなら、ざまあみろと笑えるのに。今はきっと俺も少なからず似たような顔をしているに違いない。


俺は、そんな二人を黙って見ていられなくなって無言のまま立ち去った。











お前は、行くのか。

俺を置いて行くんだな。


わかってらァ。

女々しいこたァしやせん。

こうなるだろうことくらい、
お前の過去を知った時から覚悟していた。

『どうか、高杉は私に!』

とうとう、その時が来た。

それだけだ。









でも。













「夢乃ーっ!」

とうとう、作戦が始まった。
俺達の奇襲はそれなりには成功したようだが、
相手はあの高杉。
雑魚は狼狽えているものの、幹部達の落ち着き振りは想定の範囲内といった感じで、むしろ俺達とのケンカを楽しんでるようにも見えた。
これではきっと逃走経路も確保されているだろう。
しばらく遊んだら消えるつもりか。
しかし、あちらこちらで展開されている闘いはどれも殺気立っていて、本気で遊ぶ気満々ってところらしい。もしくは、高杉のための時間潰しか。
狂犬のような高杉が獲物を狙っているから。
高杉の獲物は、夢乃以外にいないだろう。
あいつも、それをわかっていて、高杉のもとへ向かったんだ。

だけど、一人では行かせたくなかった。
邪魔な奴らを凪ぎ払って、やっと夢乃に追い付いたそこは、すでに高杉のテリトリーの中。
足を踏み入れると、夢乃と対峙するヤツは狂ったケモノのような目を向けてきた。
片目だけでこの迫力。
いや、片目だからこその迫力か。


「総悟!?
バカ!何しに来た!?
ここは私が、と散々言ったのに!」

「安心しなせェ。
邪魔ァしねーよ」


お前の邪魔はしない。


「ククッ、見物でもしにきたか?
本当にテメェらはロクでもねぇな」

「高杉ッ!」

「見物ねェ。
近いっちゃ近いが違いやす」

「まァいい。どっちにしろ、二人でかかってきても俺には敵うまいよ」


余裕こく高杉の目が細められて、夢乃から感じられる緊張感が更に張り詰めたのがわかった。


「総悟。戻って。
こいつは私が。一人で十分だから」

「ふざけんな。
お別れくれェ、してェだろ」

「‥総悟?お別れ?」

緊張感はそのままに、しかし明らかに戸惑う夢乃と、それを見て急に笑い出した高杉。
やっぱ気違いだろ。

「クク、面白れェ。
お別れ、か。せっかくだ。盛大にしておけよ?
俺について再び俺の女になるか、今ここで俺に斬られるか、どちらにしろお別れだもんなァ」


勝手に行くな。
行くのを止めてェわけじゃねェ。
お前が選択するのを見届けたい。
見送りくれェさせてくれ。


「‥‥‥‥高杉‥総悟‥」

「俺はお前の邪魔はしやせん。
言ったろィ。見送りに来ただけでさァ」

土方さんも、近藤さんも、
お前を引き止めたりしねーよ。
もうみんな、覚悟は出来てらァ。
お前が決めたことだ。


「‥っとに、‥‥バカ!!」

‥は?

「バカじゃないの!?
いや、バカなのはずっと知ってたけど!
こんなにバカだとは思ってなかった!!
あんたもよ、高杉ッ!」


突然に殺気を怒気に変えて罵倒し始めた夢乃の周りに、何か高エネルギーを感じるのは気のせいだろうか。
心なしか高杉までもが怯んでいる気もするのだが。


「あんた、このままこんなこと続けてたら本当にいつか捕まるわよ!?こんな、くだらないっ‥ことっ!いつか私や銀時に追い詰められる前に諦めなさい!バカ杉!!
あと総悟!
何勝手にお別れしようとしてくれちゃってんの!?」

だって、お前‥
あ!ちょっと待て!おい!

「私はバカ杉に負けるほど弱くない!
土方さんや総悟には相性悪そうだし簡単にヤラレてもらったら困るから私が引き受けるって言ったのに!
それとも何!?私があの変態のとこに行くとでも思った!?
言ったでしょう!?私と晋助はとっくに終わったのよ!」

「ホントちょっと待て!
話しを聞け!」

「うるさい!
もうマジ有り得ない!
まだ信用してなかったわけ!?最低!
そんなに私と別れたいの!?」

「なんでそーなるんでィ」

「私が高杉のとこに行けばいいって思ったんでしょ!?」

「行けばいいなんて言ってやせん」

「同じよ!信じてくれなかったもの。
私を、総悟はあきらめたんだから!」

「わかった!わかりやした!
お前が気が済むまで謝りやすから、今は前を向けバカヤロー!状況把握しろ!」

「え、前?
ッ!?高杉ッ!?」

「とっくに逃げてんですがねィ」

高杉がいたはずの場所には一枚の紙っぺら。
『バーカ』

「‥‥‥あのやろー」

グシャリと紙を握り潰した夢乃は何やら呪いの言葉のようなものを吐き出す。
そのうち小刻みに肩が震えているのがわかって、俺はまたモヤモヤした気分になった。

高杉の元へ行くのを邪魔したのは、俺だ。


「‥‥っあははっ」

‥‥‥‥は?笑って?

「まいっか。ミッションコンプ!」

「いや、取り逃がしただろ」

「何言ってんの、総悟。
今のウチの組織じゃ高杉捕縛なんて無理に決まってんでしょ?」

「聞き捨てられねェんですが」

「事実よ。私はもちろん、総悟もトシも近藤さんも強いけど、総力では敵いっこない。銀時やヅラに応援頼んでもギリギリかな。
今回のことだって、完全に読まれてたし。
体よく遊ばれたってとこかしらねー」

昔の仲間の名前を出す夢乃が気に食わない。

「だから、ミッションコンプ。
誰も死んでない。あとはまぁ、大した収穫じゃないけど、そこで泡吹いてる高杉の取引相手も捕まえたし。結果的にはいいんでない?
私は総悟達を守りたかっただけだもん」

「取り逃がした責任取らされますぜ」

「覚悟の上。
なんなら、総悟に邪魔されましたって言うし」

「テメェ」

「嘘、ありがと。
高杉の相手して剣振り回さなきゃいけないかと思ってたけど、おかげで戦わず追っ払えてラッキー」

やっぱり、いつものテキトーなお前だった。

「なぁ、お前って高杉に勝つ自信あるんでィ?」

「あるっていうか、負けたことないし」

実力うんぬんは別として、
晋助って私の剣と相性悪いらしくて大体私の勝ちで。調子狂うっていつも敬遠されたなぁ。
今思えば、惚れた弱味ってやつかもねー?
あいつまだ私に未練たらたらだしー、あはは、負ける気しないよね。


‥‥‥‥もしかして、マジで俺は邪魔したのかィ?むしろ俺が助けたのは高杉か!?

ま、どっちにしろ、コイツが笑ってるからいいか、と。
一緒に土方さんに怒られる覚悟を決めた。
きっと土方さんも近藤さんも、
取り逃がしたことよりも、俺達が揃って戻ったことを喜んでくれるだろう。



「私は総悟のそばを離れないから、総悟も私を離さないでね。二度と、私を諦めたりしないで」


.2011.12.09

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!