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背中に想うG あの日



どうして。


どうして、

そんな寂しそうな背中なの?


もし、あたしが尋ねたら

その訳を教えてくれますか?



あなたの背中を見る度に

叫びたくなるほど

溢れ出す感情を、


あたしは、

「恋」と呼んでいます。





















「おい、謎女」

委員会の集まりの後、教室に戻ったらドアを開けたと同時に苛立った声を浴びせられた。

にしても。

今、なんて?なぞおんな?


「なにそれ」

「10代目知らねぇか!?」

「‥スルーなんだ。
沢田?知らないよ。委員でもないしもう帰ったんじゃない?」

「やっぱ見てねぇか。
本当に帰られたんかな」


獄寺隼人は頭をがしがし掻いて、何の挨拶もなしに教室を出て行った。
毎回毎回、失礼な奴だと思う。



沢田、どっか行ったのか。

あの場所にいる気がした。

















やっぱり、いた。


沢田は屋上で床に体育座りで空を見ていた。
時々、こうしているのをあたしは前から知っていた。

『10代目!』
『ツナ!』
『ツナ君!』

ここ最近の、彼を取り巻く周りの急激な変化。

はにかみながらも戸惑う沢田。

焦る、あたし。


こんな醜い思いを抱えてること
どうか、気付かないでと願っていた。


膝を抱える彼は、とても線が細い印象を与えていて、なんて頼りなげな背中なんだろうかと心配になる。
だから。
初めて、この光景に出くわした時から、あたしは沢田の淋しげな背に惹きつけられたままだ。


空に、何を思い馳せているのだろう。
ダメツナと呼ばれる彼らしく、実は何も考えていないかもしれない。‥それでも。彼の背があたしを捕らえるのは、変わらない。


いつも、見ているだけだった。

声を掛けたら、消えてしまう気がしていた。
彼をそっと見詰めるだけの、甘酸っぱい切なさが意外と心地良かったから。

今は、これだけでもいいと。

こんな沢田を知っているのはあたしだけだと。‥思っていた。


そして。
訪れた変化。

沢田は変わった。


まだ、間に合うだろうか。



一歩ずつ、確実に踏み出し、
あたしに気付いた沢田と軽く挨拶を交わした。

よいしょ、と沢田の後ろに同じ様に腰を下ろす。

「ぅえ!?」と、ちょっと焦ったような沢田の声が聞こえた時、あたしの背と沢田の背中が触れた。
少し寄り掛かれば、あっさりと倒れそうになるので苦笑が漏れるが、背中合わせの沢田には見えななかったはずだ。


「良い天気ね」

「え?‥あ、うん。そ‥そうだね」


たった、それだけ。


それだけだった。

風と雲と、陽の光。
あと、沢田の落ち着かない背中。

動きがあったのは、それだけ。



それから、沢田の背中がやっと静かになった頃、勘だろうか。天使、もしくは悪魔の声だったかもしれないけれど、あたしは唐突に理解した。


『もう遅かったのだ』と。


この小さな背中に、あたしの体温を預けられる日が来ることは無いのだ、と。知った。



酷いものね。だって、あたしは
何一つ沢田に伝えていないのに、答えがわかってしまったなんて。

涙が出そうだ。
他人事のように思って、あたしは立ち上がった。
離れた背中が、冷やりとした。


「‥沢田、よかったね」


何が、なんて言わない。
不思議そうに見上げてくる彼に
情けない笑顔を作り、じゃあね、と思い切り背中を叩いてみる。

ぎゃーだか何だか呻いた彼は、
あたしが今にも泣きそうだなんてきっと気付かない。










「ん?
お前、ツナのクラスメートか?名は?」

屋上からの階段の踊り場で、鉢合わせたのは何故か子供だった。

「はい。夢野由芽‥ですけど」


子供には威圧感があった。
これも、さっきの天使か悪魔の声の一種だろうか、なんて馬鹿な事を考えたけど、どうしてか敬語を使わなきゃいけない気がした。


「ふむ。そうか。
これは偶然にも良い拾いもんしたかもな。素質あるぞ、お前」

「‥はぁ。
‥‥沢田が変わったのは、あなたのせい?」

「そうだぞ。俺はリボーン。
ツナをマフィアのボスにするのが俺の仕事だ」

「‥そう」


「ツナは屋上か?」

「うん、まだあのままだと思います」

「もしかして‥‥お前、ツナのこと?」

「‥ずっとね。
あなたが沢田を変える、前から」

「‥悪かったな」


ああ、この人にはわかっているのだ。あたしの、恋の行方が。


「いいの。
変わらないから。
あたしは、きっとこれからも、沢田の背中を見ているだけ。
いつか、が来るまで」

「お前‥。
愛人向きの良い女だな」

「褒め言葉なら、嬉しいけど」


「ツナの、手助けを頼むのは、
拷問か?」

「拷問?
いいえ、‥あたしには‥悪魔の囁きに聞こえます」







手を伸ばせば届くのに、
決して触れられないもどかしさに苦しむよりも。


あたしの知らないところで、
あなたが知らない人になってしまう恐ろしさの方が堪えられないと、

幼かったあたしは、安易にも思ってしまったんだ。


「頼まれずとも‥あたしが沢田の、力になれるのなら」

「‥‥‥悪ぃな‥」

「出口を失ったなら、力尽きるまでもがくだけ」

「安心しろ。貰い手がなけりゃ俺の愛人にしてやるぞ」

「それはまた魅力的ですね」



でもね。

たくさん後悔することはあっても

あなたに恋したことだけは

絶対に後悔しないって

決めたんです。







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あきゅろす。
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