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r.short
背中に想うD



思い出という宝物がある。




あの日のこと、

思い出すだけで辛かった。


だからあたしは、

蓋して、鍵をかけて、

隠すように

心の奥底へしまい込んだ。



忘れられると思ったんだ。



でも、

覚えてるよ。


思い出になって、

今では大切な宝物のように

思えるようになったけど。


まだまだ

忘れられそうにない。


開けば、ほら。

胸に広がる

甘酸っぱい、想い。






















「リボーンさんが、ありがとうって」

「は?赤ん坊が?」

「そうよ」


雲雀は浴衣に着替えて今は寝室の一角で日本酒をゆるゆると飲んでいる。
これが雲雀の、ここ並盛での日課だった。
‥‥以前、この光景を見て、ふと「なんだっけ、吉原?昔の『そういうところ』みたいね」と漏らしたところ、「そう?」と雲雀は何とも言えない怪しい笑みを浮かべたのだ。その晩以来、絶対に突っ込みは入れないと誓った。


いつもと違うのは、あたしは了平さんのお土産のワインを飲んでいること。

畳に座って日本酒を飲む雲雀は、またなんとなく絵になるけれど、対するあたしは、寝室の窓辺に寄り掛かる。
ここが出来る前からそうだった。「だらしがない」と何度噛み殺されそうになったことか。
ならばわざわざあたしを部屋に呼ぶな。
連日のように繰り返されたやり取りが消えたのは、一体何年前のことだったかな。


「毎日毎日、変化のない作り物の景色を見て面白いの」

「‥‥って、あんたが作らせた庭でしょう」

「だから?」

「‥‥‥‥‥。
にしても。よく出来てる庭ね」


夜にはちゃんと夜の景色となる庭。離してあるのか、微かに虫の声も聞こえる。ここが地下なのを忘れてしまうくらいによく出来ている。


「10年前の沢田達がいるだけじゃなくて、赤ん坊にも何か言われたか」

「どうしたの?」

「何かあると、君はすぐ窓の側へ行くだろう」

「‥‥‥‥‥‥」


気が付かなかった。
でも、言われてみれば自覚がある。最近は毎日こうしていたから特に意識していなかったが。
雲雀はこういう、あたし自身でも知らなかった「あたし」も見ている。


「ありがとうって言われただけよ」

「なんで」

「クロームのこと。
助けてくれてありがとうって」

「今死なれたら困るからね。
‥ああ、そうだ」

「何?」

「これ」

雲雀が見せたのは、何かの小さな、発信器のようなもの。

「発信‥器!?」

「ああ。
君が彼女の、六道骸の武器を確認しろと言ったからね。鞄を開けたら、これが」

「ちょっと、それまずいんじゃ」

「まずい?何言ってるの?
よく考えなよ」

「‥まさか、それ使って囮に‥」

「他に良い使い道があるかい?」

「‥‥‥‥‥」

「彼らは弱い。
弱すぎる。僕は彼らと群れるつもりはさらさらないんだ。
例え死んだって、一緒に戦うなんてご免だ」

「‥‥恭‥弥」



10年。

「雲雀は優しくなった」と言う人がいる。
あたしは、そうじゃないと確信を持って言える。

優しくなったんじゃない。

ほんの少し素直になっただけだ。


まだまだわかりにくいけど。



「‥一人で、やるの?」

「そうなるだろうね」

「大丈夫よ。
10年前だって、沢田達は強いもの」

「ちょっと。何で草食動物の話になるの」

「心配なのはそっちでしょう。
恭弥の心配、するだけ損だし。
いっつも楽しそうに戦うだけ戦って。心配するあたしは馬鹿みたいだし。‥もし恭弥が負けて敵が入り込んで来ても、あたしとリボーンさんと草壁さんで非戦闘員は逃がせるから」

「‥‥‥‥‥‥」

「大丈夫よ。
恭弥が負けたって、あたしはきっと、大丈夫」

「‥‥君。鏡見たら?
言ってること、矛盾してる」

「うるさいっ」

「泣きながら大丈夫って言われても説得力ないよ」

「ちょっと酔っただけよ」


全然顔に出ない雲雀と違って、
あたしは酔うと顔に出る。
それでも、人前では酔ったりしないのに、月日というのは恐ろしく、雲雀の前では見事に飲まれてしまうようになっていた。


「先に寝るから。おやすみ」

「逃げる気?‥噛み殺すよ」

「‥‥‥恭弥‥酔ってる‥?」


雲雀はどれほど飲んでも顔に出ない。しかし、酔わないわけではない。顔に出ないからこそ、恐ろしいのだ。


「‥さあね」

くすり、と笑う雲雀に確信する。完全に酔ってる。


「泣くほど心配?」

「‥‥っ、当たり前でしょ!
今までだって、心配したけど、
ミルフィオーレ相手に、‥」

「‥どういうこと?」

雲雀を見れば、急に毒気を抜かれたような顔をしていた。

「心配なのって、沢田達じゃ‥」

「‥‥たまには、‥心配くらい、するわよ」


最強の守護者でも、

心配したって良いでしょう?

どうせするだけ無駄だろうけど。

一人くらいは、

泣くほど心配する馬鹿だって、

いるんだよ。



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あきゅろす。
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