r.short
背中に想うB
もしもの話を考える。
もしも、
あたしにもう少し
勇気があったなら。
もしも、
あたしがもう少しだけ
素直だったなら。
今、あたしは
こんな思いで
あなたを見ずに済んでいた?
「ちゃおっす、由芽」
「あ。由芽、ってオイ!
リボーン!何平然と挨拶してんだよ!ここ学校だぞ!?」
「こんにちは、リボーンさん」
「由芽も普通に挨拶返すなー!つか!学校に来るなっていつも言ってるだろリボーン!」
「ちっ、うるせぇ奴だな」
「忙しそうね、沢田」
突っ込み入れるのに。
とからかうとまた沢田に喚かれた。
ここは学校の廊下で、リボーンさんは消火栓の扉を開いて沢田と話していた。そこへあたしが通りかかったんだが、沢田が今叫んでいる内容によると、あたしは若干適応し過ぎるのだそうだ。
「少しは驚けよ!」
「それはそうと、調子はどうだ?」
「無視かよ!?」
「どうでしょう?少しはマシになりましたかね。‥ほら」
えいっ、と人差し指を上へ示してちょっと可愛いらしく沢田に微笑むと。
あたしの背後から真っ黒いカラスが一羽、沢田に向かって飛んでいった。
「んなっ!カラスぅー!?
ぎゃー!なんでー!?ひっ!!」
「‥上達したな、随分」
「まだまだですけどね」
「ツナの奴、由芽が術士だって知ってるくせに毎度毎度‥。本当にダメツナだな」
「あはは。沢田ですからね」
カラスに追われて走って行く沢田を見送ってリボーンさんに向き直る。
「骸も黒曜組も、それから雲雀も相変わらずですよ」
「そうか。
雲雀のリングは?」
「今もあたしが持ってます。
駄目ですね。興味無いって」
「‥‥‥」
「でも、リボーンさんの一言は効いているみたいでした。事あるごとに『なくすな』って確認してきますから。
あれ、多分‥」
「なんだ」
「多分ですけど、自分で持ってると絶対なくす自信があるから、代わりに持っててくれってことなのかもしれないな、と」
「‥お前もそう思うか。
雲雀は強い奴との戦いが好きだからな。そのきっかけをむざむざ捨てるような奴じゃねぇ。
‥‥ま、どっちにしろ、雲の守護者だからな。敵か仲間かわかんねぇくらいでちょうど良いだろ」
「そうですね」
「さっきのを見ると、お前の幻術も随分と上達したな。反応もスピードも、リアリティも増している。頑張ってんのか?」
「そこそこ、には」
「ふん、そこそこ、か」
不敵に笑う小さなヒットマンに
敵わないなと苦笑せざるを得ない。
「‥‥ばればれですか?」
「ばればれだぞ?
お前、毎日毎日、しっかり修業してんだろ?」
「‥暇なんですよ」
「そうか。
ほどほどにな。
お前は素質があるが、あくまで非戦闘員だ。ツナはお前に幻術を教えることを認めたが、それは京子やお前自身を守るためであって、戦わせるためじゃない。ってダメツナのくせに俺に念を押してきやがった」
「たまにボスっぽいんだから」
「だな。
ってことで、無茶はすんなよ」
「はい」
この小さな子供は、ヒットマンだというのにとても優しい。
あたしに守るための力を与えてくれたのもこの子供で、骸から教わる授業料として黒曜組に骸との修業の日にまともな飯でも作ってやれと提案したのもこの子供だった。
そんなもので良いのかと不安だったけれど、意外にもあっさりと骸は了承したらしい。
行ってみて納得したんだが、彼らの食生活は本当に酷いもので、あの骸ですら心配していたという。
「にしても。」
きらり、とリボーンさんの空気が微妙に変わった気がした。
こういう時のこの人は苦手だ。
「どうしてそんなに焦っている?」
ほら、なんだか楽しそうじゃないか。そんな、わかってるくせにわざと聞くなんて。
「わかりませんか?」
「ふっ、若いな」
本当に、この人だけには敵わない。
「焦ってるんじゃないですよ」
「全ては『あいつ』のためか」
「‥‥‥‥認めたく‥ないですが、ね」
「わかってても、か?」
何を、とは聞かない。
わざと言わなかったのは彼の優しさだから。
「‥わかってるから、です」
「‥‥‥悪ぃな‥」
ぽつりと、呟いたその表情は、深く被り直された帽子で伺えない。
「いいえ。
時間の、問題なんです。
今はまだ‥でも、きっといつか‥」
「ああ、‥お前達は、若いからな」
沢田、こんなに優しい家庭教師は他にはいないと思わない?
子供のくせに、全然子供らしくはないけどね。
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