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背中に想うA


ねぇ、

あなたは知らないでしょう?


寂しげなあなたの背中を、

あたしが一体どんな思いで

見詰めているのか。


手を伸ばせば届くのに、

想いはあなたに届かないから

触れられない。


もどかしさも、苦しみも、

あたしの胸の内で

悲鳴をあげているけれど。



あなたが気付くことは、

きっと、ないのでしょう。

















「‥まぁまぁ様になって来ましたかね。‥おや、大丈夫ですか?」

「‥大丈夫‥です」


駄目だ。限界。

まるで酷い立ちくらみだ。

立っていられず、ふらついた瞬間に片膝を付いてしまう。

くそ。悔しい。


「大丈夫‥?手‥貸そうか?」

クロームが控えめに手を差し出してくれたけれど、あたしは小さく微笑んで辞退する。


「悔しいですか?」

向こうには、クフフ、といつも通り人を馬鹿にするような笑みを浮かべる、残像のような骸の幻覚。


「‥っ!!」

あたしにはもう文句を返せる余裕なんかなくて、でも必死に重い体を動かし、立ち上がった。
途端に真っ暗になる視界に舌打ちを一つ。
片手で頭を支えてもふらつく体に目を固く閉じた。

体中の血が抜かれていくような感覚。


「今日はこれまでにしましょうか」

骸が千種、と呼んだのがわかった。

千種が側に寄る気配がして、抱えられると言うに近いくらいガシリと支えられて、いつの間にかソファに座らされていた。
例によってクフフと骸が近づいてくる。


「そんなに悲観するものではありませんよ。
1時間半、幻術を使い続けて気を失わなかったのは初めてでしょう?」

「‥‥‥‥‥‥」

「クフフ、どうやら、ちゃんと毎日修業を熟しているみたいで先生としては嬉しいですよ」

「‥ふざけ‥ないで‥」

「おや、本心なのに。
‥フフ。では、また来週お会いしましょう」


骸の残像が消えて、やっとソファに素直に体を預けた。
いつの間にか隣にクロームがちょこんと座っている。

「‥大丈夫?」

心配そうなクロームに大丈夫だと頷いて見せる。


「倒れなかったの‥初めてだね。‥骸様も、喜んでた」

骸のことは知らないが、確かに骸との修業の後に、気を失うこともなく、尚且つまがりなりにも倒れ込まずに済んだのは今日が初めてだった。

力は、上がっている。

‥だけど。


「‥‥でも‥まだ‥。
強く、なりたい。‥早く、強くなりたい‥」

早く、早く。

「なんの、ために?
誰のために?」

隣に座るクロームは、すごく純粋な眼をあたしに向けていた。

「‥何のため?」

「骸様が言ってた。
由芽は私と同じだから、強くなるって。
私は骸様のために戦うから。由芽も?」

「あたしは、そんなんじゃないわ。戦いたいわけじゃないし」


素質を買われて幻術を教わるにあたって、あたしがリボーンさんから与えられた役割は、非戦闘員の守護と情報操作。あくまでも、非戦闘員として。
だから、習いたてではあったけれど、リング戦の時は陰ながら笹川京子や沢田の母親などの護衛にこっそり付いた。
「くれぐれも内緒にして」という沢田たっての願いもあったから、彼女達に感づかせない様に少しばかり細工したりもした。


それから。
リボーンさん達ボンゴレと黒曜サイドの橋渡しもいつの間にかあたしがやっていた。
あたしが術士だと知っていても、骸に幻術を教わってるとは沢田は知らないから、リボーンさんはこれも沢田には言っていないんだろうな。


「‥ただ、あたしは‥骸さんのためじゃないってことだけは、確かね」

割り切れて、ただ自分のためだけにと言えたらどんなに良いかと思う。


「由芽‥」

「オレ、腹減ったんらけど!」

部屋の入り口にもたれかかった格好で犬が不機嫌そうに喚き始めた。


「‥犬。今の状態じゃまだ無理だよ」

「うっせぇ!腹減ったもんは減ったんら!」

千種の言った『今の状態』とは、あたしのことか。


「だいたい、柿ピーはその女に甘いびょん」


獄寺隼人といい犬といい、この手のキャラはどこにでもいるのね。


「わかったから」

千種と犬のやり取りとあたしの様子におろおろしていたクロームがまた心配そうに見詰めてきたけど、あたしだっていつまでも座り込んでいる程弱くはない。
千種に手を借りて立ち上がる。


「ご飯にしましょう」

「おっしゃ!」
「‥由芽」
「もう、いいのか」


「今日はすき焼き。
先週、食べてみたいって言ってたでしょう?‥凪」

「‥うんっ」







厭味でムカつく骸。

煩い犬。

不器用な千種。

純粋過ぎるクローム。



沢田の周りにも負けないくらいにここも賑やかで。

素直には認めたくないけど、あたしは意外と気に入ってる場所なんだ。





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