r.short
背中に想う@ (雲雀?)
「ツナを立派なマフィアのボスにするのが俺の仕事だ」
あたしが、沢田の秘密を知ったのは、全くの偶然からだった。
たまたまだとか、巡り合わせだとか。そういった説得力に欠けたもののおかげだった。
沢田から見たら、「運が悪かった」とでも言うのだろう。ダメツナらしく。
あたしが沢田の巻き込まれているゴタゴタを知ることは、関係のないあたしまでも巻き込まれるかもしれないという、沢田にとってはまさに迷惑で悩みの種を増やす、望まぬ出来事だったに違いない。
‥なるほど。
結局あたしはそれ以来、非現実的とも言える日常へと足を踏み入れて、そして出会った刺激的な人達とともに毎日を過ごしている。
「運が悪かった」。ひょっとしたらこの言葉はあたしの言葉でもあるかもしれない。
「雲雀さんは、沢田と関わったこと、運が悪かったと思います?」
「‥‥‥こうして連日校舎が汚れるのは非常に腹立たしいよ」
あたしが提出した報告書に目を通しながら、殺気を含ませた答えを放つ。
予想通りの答えに少しつまらなさを覚えて、あたしは応接室の見るからに堅苦しそうな黒い皮張りのソファに腰掛けた。
「でも、さすがボンゴレ?‥いや、沢田というべきかな?
今回も全て元通りですよ」
その報告書見たらお分かりの通り。
「あの忌ま忌ましい幻術じゃないだろうね」
「いいえ。
それはあたしが確認しました。
幻術で胡麻かしていた先日のも、昨日までにきっちり修復されてましたよ」
ってなんであたしがこんな報告書を作らなくちゃいけないんだ。
じゃんけんで負けて美化副委員長になってしまったのはもう諦めたけれど、ボンゴレの事情を知ってるからといって、なんであたしが風紀のために。それに、一般的な中学生の美化委員とは仕事が違うだろう。
大体、一般的な中学校で戦いは起こらないし、爆発も起きるわけがないのに。
「っていうか、なんで君そこに座ってるの。許可を出したつもりはないよ」
「だって‥ヒバードが遊びたいって言うから」
先程からヒバードがあたしの周りをパタパタと飛び回っていた。
ソファに座り込んでからは膝の上に落ち着いたけど。
「邪魔だよ、噛み殺すよ」
「出来るなら、どうぞ」
「‥‥‥‥」
ぴくり、と雲雀さんが書類から目線を上げて部屋の空気が張り詰めたのを感じた。
「君、技だけじゃなくて中身まであいつに似てきたんじゃないの」
「あたしはあんな火柱は出しませんけどね。
‥噛み殺したい?」
「いつかね。
でも君は使えそうだから生かしといてあげるよ」
さすが雲雀様。と心の中だけでげんなり突っ込み、壁の時計を見た。‥あと10分くらいかな。
膝の上のヒバードが餌をねだるので、何かなかったかとポケットを漁るが、何もなかった。
ポケットを漁ったついでにブレザーの内ポケットから指輪を取り出してみた。
守護者のリング。
雲雀さんが持つべき雲のリング。
「‥一体いつまであたしがコレ持ってればいいんです?」
「何それ」
「‥‥‥指輪です。雲雀さんの。リボーンさんに『なくすな』って散々言われたでしょう」
「ああ、それ。
持ってて。なくさないでね一応」
「なんであたしが」
「僕はそんなもの興味もないし、いらないから。でも、赤ん坊がなくすと二度と戦わせないって言うから仕方ない」
「それ、答えになってないです。
持つべき時には渡しますからちゃんと着けてくださいね」
なんであたしなの。
ああ、いつもと変わらない。
何一つ。
何度も繰り返してきた問答だ。
最初こそ呆れていたリボーンさんも、とうとう、なくされるよりマシだと諦めた。
『指輪と雲雀を頼むぞ』
当たり前だ。
頼まれずとも、これがあたしに出来ることならば。
「せいぜい大事に持ってなよ」
「‥そんなに戦いたいんですか」
「愚問だね」
「そうですね」
「僕は、強い奴と戦えればそれで良い。あの草食動物の周りで起こる戦いは、いつも僕を楽しませてくれる」
しっかり「校舎が壊れるのは許せないけど」と小さく付け足して、確認したらしい、あたしが持ってきた報告書がトンと音を立てて揃えられた。
「沢田と関わったこと、運が悪かったと思うかって君は聞いたね。むしろ、僕にとっては運が良かったと言うべきだろう。
次から次へと強い奴が現れる。
願ってもないことだ。
‥そして、あの草食動物もどんどん強くなる。
楽しみだよ、強くなった沢田を噛み殺す日が」
「‥‥‥それも‥想像通り。」
「何か言った?」
「いいえ。
‥では、お邪魔しました」
「帰るの」
「今日はこれから修業なんで」
「ふーん。そう。」
じゃあね。
ヒバードを膝の上からソファへ移動させて席を立つ。
壁の時計はちょうど良い時間を示していた。
スーパーに寄ってから行けばちょうど良いはずだ。
さあ、修業だ。‥黒曜へ。
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