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黒いトンビ (沢田)


今日イタリアにあるボンゴレ本部では、一人の日本人の青年が鼻歌を口ずさみながら外出の用意をしていた。

青年は、イタリアン・マフィアのトップとも言われるボンゴレの10代目ドン候補である。しかも、9代目が執務から遠ざかった今では実質的に10代目とその側近がボンゴレを切り盛りしている状態だった。
9代目にとってみれば今は移行期間、内部の反対派に彼を認めさせるための期間で、あと一年もすれば完全に引退する心積もりである。



少なくとも3日前から、そんなボンゴレ10代目候補の若き日本人、沢田綱吉はとても機嫌が良いらしいと本部では噂となっていた。
口癖は「俺は好きでマフィアのドンやってるんじゃないよ!」な彼。
連日のように、好き勝手な自身の守護者達の引き起こす騒動や裏社会の象徴とも言われるアルコバレーノの横暴に振り回され、ひたすら必死に半泣きでツッコむ姿がボンゴレ内部では日常となっているが、このところは不気味なほどに全てを笑顔で受け流し楽しげに過ごされている、らしい。
苦労人のドンに訪れた突然の変化に、ファミリーもひそかに喜んでいた。

例え一時の幻だとしても。





「山本、早く早く!」

「おっけ、シートベルトしっかり締めたか?」

「うわわわ、速い!速過ぎっ!
ぎゃー!山本、やっぱ安全運転でお願いしますぅー!」


急いで向かうのは、郊外の別荘。今日イタリアへ遊びにきた片想いの相手が滞在する予定の、邸宅ではなくもはや城サイズのドンの別荘だ。
本来なら空港に彼女を迎えに行って一緒に向かうはずだったが、出掛けに小さなトラブルの報告があり、その処理のせいで遅れてしまった。
彼女は無事到着し、すでに別荘に向かったという連絡があったので、時間的にもう着いているだろうと思われる。彼女の迎えはリボーンが自ら引き受けてくれたので、綱吉は任せるしかなかった。しかし、適任だったとは思うものの、リボーンが自ら立候補したことが妙に引っ掛かるのであった。







「はーい」

別荘に着き、いの一番に彼女のいる部屋へ向かう。

軽くノックをすれば中から聞こえてきた日本語に思わず頬が緩む。


「由芽ちゃん!長旅お疲れさ‥ま‥‥‥リボーン!?」

会いたかったその人。
久しぶりに目にする彼女にドキリとするが、次の瞬間、違う意味で心臓が跳ねた。


「ツナ君!久しぶり!」

「チャオっす」


「チャオっす、じゃねぇー!
何やってんだよリボーン!?」


「何って、再会を喜んでたんだぞ、なぁ由芽」


「うん、リボーンちゃんにもツナ君にも会えて嬉しいよ」


「ほら、馬鹿みてーに突っ立ってないで早く座ったらどうだ?ダメツナ」

いや!お前はどこに座ってんだっつーの!!

綱吉の心の叫びを読んだ師はニヤリと勝ち誇った笑みを教え子へ向けて黙らせる。
彼らの向かいのソファーに渋々腰掛けた綱吉は、改めて目の前の信じられない現実と向き合うこととなった。

リボーンは由芽の膝にちょこんと座っており、子供らしからぬ人を小馬鹿にした笑みを向かいの綱吉へと向けている。
それは、数年前、まだ並盛だけが綱吉達の世界だった頃には当たり前だった光景。

何でそんな当たり前みたいに由芽ちゃんの膝に座ってんだ!?

何故か嫌な予感しかしない綱吉である。



「わりー、屋敷ん中迷っちまって遅くなった!」

ははは、と笑いながら山本が爽やかに登場するが、彼もまた室内の光景に一瞬目を見開く。


「広いからな、この屋敷は」


「私も迷っちゃいそうだよ。素敵なお屋敷だけど」


「気に入ったか?この部屋は屋敷の中でも最上の部屋なんだぞ」


「お姫様になった気分だよ。こんな映画みたいなお部屋夢みたい。
でも、広すぎてちょっと夜怖そうかな」


「怖かったら俺が一緒に寝てやるぞ」


「本当!?よかった、ありがとうリボーンちゃん」



「ちょ、ちょっと待ったー!」

お前、それが狙いか!ふざけんな。元に戻れよ!

どーした、ツナ。嫉妬は見苦しいぞ。

どうしたの、ツナ君?

だまされちゃ駄目だよ!リボーンに!そいつ本当は赤ん坊なんかじゃないんだよ!

何言ってんだ?とうとう頭いかれたか?ダメツナめ。

ダメツナ言うなぁー!



懐かしい。
山本は部屋の入口から動けないまま、綱吉達のやり取りを微笑ましく見守っていた。


「うーん、なんだか昔と変わらず懐かしい感じなのな。
にしても、小僧のやつ、呪い解けてすっかり大人になったはずだったよなー。
まだ赤ん坊に戻れたのか。どうやってんだ?ま、なんでもアリだよな」


呪いが解けて大人の姿に戻ったはずのリボーンは、綱吉の片想いの女の子の膝の上で、懐かしい幼い姿となって抱かれている。
大人リボーンの姿で色気全開で彼女に近付かれるよりはよかった気がするものの、言いようのない嫉妬にかられた綱吉である。

ちなみに、休暇に一体何があったのか、休み明けのドンは一転して機嫌が悪く、なるべく近寄るなと本部ではまた囁かれることとなったようだ。




.


彼女の滞在中、ずっとリボーンは赤ん坊のまま美味しいとこ取りしまくったようです。

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