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r.short
悪魔の愛し方 (リボーン)
(暗い愛)



外はずっと雨が降っていた。

時折強くなる雨の音と、通りを走る車の音が微かに聞こえるだけで、室内はあたしが居る以外、眠ったように静まっていた。

夜中になると、世界は急に音をなくす。

静寂は嫌いじゃない。
安心するんだ。
あたしの周りが無音の膜で守られている気がする。
何より落ち着く。
いつも胸に渦巻く感情すらも、大人しくなるから。

‥違うな。

あたしが心を乱さないのは、静寂の中じゃなくて、孤独の中だ。


孤独‥。
考え始めて、キーボードを打つ手が止まっているのに気付いた。
思考の世界から意識を引っ張り出して、慌ててパソコンの画面の文字を追う。

が、パソコンが静かに唸る音が急に耳につき始め、あたしは気分転換にお茶を飲もうか、それとも今日はもう寝てしまおうかと選択肢を並べだした時。
玄関から聞こえた物音に過剰に反応した。


「!?」

「まだ起きていたのか?
‥卒論、か。偉いぞ由芽」

外の湿った空気を部屋へ持ち込んだのは、黒スーツの男。リボーン。

「前持って連絡するとか、インターホン押すとか、ノックするとか、何かないの?
こんな夜中に忍び込まれて、心臓に悪いんだけど。しかも毎回」

「忍び込むとは随分失礼じゃねぇか。お帰りなさいダーリン、くらい言えよな」

「よく言うわ。
だいたい、この間も合鍵返してもらったわよね?なんでまだ持ってるの?何本目?」

「この俺に不可能はない」

さっきまでは心を癒してくれた雨音も、今ではあたしの心を掻き乱そうとしている。
雨も、リボーンに味方するのか。

「コーヒーくれ。
エスプレッソな」

コーヒー。
もともと、あたしは好きじゃなかった。それでも、あたしの部屋にはいつでも美味しいエスプレッソを作れる用意が出来ている。

毎回、煎れる度に「これが最後」と自分に言い聞かせて、失敗して。
もういやだ。
飲んだこともなかったエスプレッソだって、カフェのメニューに見つければリボーンを嫌でも思い出す。
もういやだ。

「やっぱり、お前のエスプレッソは最高だな。ルーチェのには及ばねぇが、雨の日でも飲みに来る価値はある」

いつも通り。煎れてあげたエスプレッソへの彼の褒め言葉と、それに続く毒も。
もういやだ。

「これ。ツナのママンがケーキ作ってくれてな。お前、お子様だから甘いの好きだろ」

「‥ありがとう」

「本当はもっと早く来れたんだが、ツナのテスト勉強に付き合ってやったら遅くなっちまった。
あいつは高校受験だが、そういやお前は卒業だな。大学出た後どうするか決めたのか?」

「決めたわ。留学する」

「そうか。どこだ?」

「‥教えない」


ツナツナツナツナ。
リボーンは普段にはあまり見せない温かい笑みで、懐かれている少年の話をする。いつも一方的に。これも。もう、いやだ。



リボーンから聞いたことなんかない。でも、わかる。
彼は、昔と今で別人の様に違うこと。鋭い刃の様だった彼を、今の彼に変えた人がいたこと。リボーンはその人を、今は亡きルーチェさんを、心から愛したこと。
リボーンを慕う少年、沢田綱吉はルーチェさんに良く似た心を持っていること。





もういやだ。

‥もう、無理。



「教えない!
もう無理!あたしは、リボーンのいないところへ行く!」

「‥‥‥お前、また始まったのかその病気」

「帰って」

立ち上がり、ベッドに腰掛けるリボーンに玄関を示す。

「来いよ」

対してリボーンは、片腕を挙げてあたしを誘う。
その仕種と人の悪そうな微笑みにあたしは思わずたじろぐ。
ここで折れたら、いつもと変わらない。

「わかってんだろ、由芽」

今度はやさしげな笑顔になって。悪魔だ。

「お前は賢い。
わかっちまうんだろ?俺の数いる愛人達の中でもお前ほど賢い女はいねぇ。俺を馬鹿みたいに信じる阿呆共とは違う」

背中に冷や汗が流れた。
玄関を示していたはずの腕は、いつの間にか胸の辺りで縮こまり、震えだすのも時間の問題だった。

苦しい。いや、もういや。


「その顔。
いっぱい傷つきました。って感じか?
さすがだな。お前ほど俺を理解する女もいねぇ。‥だから、お前は俺から離れられない」


床に膝をつく。
涙がこぼれる。
両手で顔を覆う。

心が、悲鳴をあげて、煩い。


「愛してるぜ、由芽。
お前はお前の好きに生きればいい。留学だったか?いいじゃねぇか。行って来い。‥だがな、俺から逃げられるなんて本気で思ってる訳ないよな?」

ふわりとした感覚で、リボーンに抱き上げられたのがわかった。
彼は、絶対に暴力を振るったりしない。彼の動作はいつも優しくて、絶対にあたしを傷つけるようなことはない。

でも。
あたしは傷だらけで。
心が見えたなら、きっと見るも無惨な程に痛めつけられているに違いない。

「泣くな」と優しく布団の上に下ろして労るように髪を撫でてくる彼の手。


「もう無理?馬鹿言うな。
俺がいなくて困るのはお前だ。
なんでお前が傷つくか知ってるか?」


悪魔がいるとしたら、きっとリボーンみたいな奴なんだろう。
それで、魂を少しずつ蝕んでいくのだ。


「一つは。俺に愛されたからだ。俺の愛は毒なんだよ。手遅れだったな。
それと二つ目の理由は‥お前がそれほどまでに、俺を愛しているからだ」


傷ついてみせろ。
心から、なんて比じゃない。

魂から俺を愛せ。

ずたずたになったお前に、俺は満たされるんだ。




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