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素直なあの子 (山本)

今日。

起きたら、世界の全てが真っ白だった。




















「雪だぜ!雪だ!」

「おーい!B組の奴らとクラス対抗戦しよーぜ!」

「やるやる!」

「CとF、もう始まってっぞ」


中2の男子なんて、小学生と大差ない。と花は言う。猿よ、猿。


「けっ、雪なんかでテンション上がりやがって。‥ガキかよ」

「さ、俺らも行こうぜ!」

「ぅえっ!山本?」

「行かねーの?行くよな!ツナ」

「あ、うん」

「馬鹿野郎、10代目はなぁそんなガキ臭ぇ‥って待ってください!俺も行きます!」




昼休み。

ご飯もそこそこに飛び出して行く馬鹿な男子達。


「うわっ、この寒いのによく雪まみれになりたがるわよね。
信じらんない。見てよアレ」

窓から校庭を見下ろして(見下して、かな)花が眉間にシワを盛大に刻んだ。


どれどれ、と京子と窓際に立てば白い世界に走り回る無数の黒。


「寒くないのかなぁみんな?」

「‥‥う‥わー‥‥」

京子はのほほんと寒さの心配をしている横で、あたしは教室の中にいるというのに見てるだけで鳥肌が立つ。
花を振り返ると、もう興味ありませんとばかりに次の移動の準備、音楽の教科書を出している。


「おーい、京子ー!」

‥‥‥‥この声は。
窓越しに聞こえてきた叫び声。
あたしと花は目を見合わせて静かに呆れる。

京子は慌てて窓を開いて顔を出した。

「お兄ちゃん!?」


花はまた窓際に戻ってきて、あたしと二人、京子の隣の窓から再び下を覗く。


「‥さすが極限男‥‥‥」

「ちょっと花、京子に聞こえるって‥」

『あれ』でも一応京子がとても慕っているお兄さんなのだ。


「京子ちゃーん!」

「ツナ君!」

「あら、ダメツナ‥とその取り巻き」

「‥花、またダメツナって連発すると京子が怒るわよ」

「ふん、」


花がふて腐れたように横を向いた時、山本武が窓を開けろと訴えてきた。
一体何、と窓をスライドさせた瞬間。

ぶわっと白いものが向かってきた。
あれは雪玉!?
ここ2階なんだけど!
ってツッコミたくとも、腐っても野球部のエースが投げたものだ。あの野球馬鹿の玉は雪とは思えない勢いとコントロールで向かってくる。

「っ!?」

咄嗟に花の持っていた教科書を失敬して、窓枠ギリギリのところで打ち落とす。

「花‥ごめん、借りた。」

「事後承諾‥。まぁいいわ、雪まみれになりたくなかったし助かったから。‥っつーかあいつら!」

「花っ?どこ行くの?」

花は完全にキレて教室を出て行き、京子があとを追った。

まぁ無理もないか。
黒川ビビってやんの、と獄寺も、沢田までもがニヤニヤと笑っていたから。


「さすがだな!」

「‥テニス部エースをなめないで」

「ははっ!」

「ほんと最悪」

「悪かったって」


下に下りた花と獄寺や沢田とのやり取りから一人のほほんと離れて山本武は反省もせず笑っている。


「お前は下りてこねーの?」

「冗談でしょ、山本武。
そんな寒いとこ行かないわ」

「そっか?
でも、そこも随分寒くね?」


言われてはた、と気付く。
この真冬に窓全開。

もう外みたいなものじゃないか。


「‥‥‥‥‥‥‥寒く‥ないもん」

「ははっ、そっか!」



結局は、あたしも馬鹿なんだな。



「帰り、さ」

「ん?」

「どーせこの雪で今日部活ないだろ?
熱いタコ焼きでも食って帰ろうぜ」

「‥‥んー、って‥その群れで、でしょ?あたしパス」

「何雲雀みたいなこと言ってんだ?おもしれーな!」

「面白くない‥」

「じゃ、先帰んなよな!」

「は?」

「だって、二人ならいーんだろ?群れてなけりゃ、さ」

「‥えっ‥そ‥」

「はは、拗ねんなよ!俺は最初からそのつもりだったぜ?
みんなで、とは言ってねーもんな」

「すっ‥拗ねてない!!!」


あたしは慌てて窓を全部ぴったり閉めた。カーテンまで引いてしまったのは、これ以上山本の声を聞きたくなかったのと、
馬鹿みたいに緩む顔を見られたくなかったから。


全く馬鹿。

どうしよう。

放課後までどんな顔して過ごせばいいの。









(なんだあいつ、急にカーテンまで閉めやがって)

(ははっ、放課後が楽しみなんだろ)

(は?意味わかんねーよ)

(まぁな、俺だけわかればいいんだって)








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あきゅろす。
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