最強ツンデレの敗北
ヲ.ヲイ、何かの間違いだよな?
「ごめん、ネジ」
やっと自分の状態を把握しておとなしく布団に潜ってくれたユメ。コップに汲んできた水を渡してやると素直に飲んだ。
「全くだ。
熱のある奴が普通土の上に寝てるか?」
「‥‥‥ぐるぐるしてて‥」
「めまいもあるのか?」
「そうじゃなくて‥考えてた‥」
「何を?」
「下らないことよ」
違う。
きっと、ユメにとって凄く大切なことだ。
俺にはわかる。
「教えてくれ。
俺は、知りたい。お前の考えていることを」
「‥‥‥‥‥‥私は、
忍者に向いていないのよ」
吐き捨てるようにユメが呟いた言葉に愕然とした。
‥忘れていた。ユメは忍者としては非常に優秀だが、実は相当な馬鹿だということを。
お前が向いていないなら、一体誰が忍者に向いているというのか。
馬鹿だという事実を覆い隠して他者に気付かせないだけの忍者のセンス。まさに本能だけで忍者をやっているようなものだ。
それに加え冷静な性格が幸いし、彼女が下す判断は常に(例え感覚的に選び取ったものだとしても)、頭脳派が熟考して下すものと大差ないものだった。
白眼を持ち、天才と言われた俺ですらも、ユメの天性のセンスには敵わない。
典型的な実戦派。アカデミーを出てユメのそういった潜在的な才能は注目を集めるようになっていった。
「何を馬鹿なことを言っている」
「だって‥」
「お前は立派な忍者だろう。多くの人間が認めている。それで何を迷う?」
「私は持っていないもの。
‥私にはないの。本当の強さが」
ああ、と思った。
今日は本当に驚かされる。
また、強くなろうというのか、ユメ。
俺はいつ、お前に追い付くことが出来るだろうか。
追いかけても追いかけても。お前は遠いまま。
「本当の強さとは、何だ?」
「わからないわ。
ただ、私が持っていないものだってことは確かにわかるの」
「欲張りだな、お前は」
「そうかも。
‥でもね、ネジ。
私には必要なんだ。私がこれからも忍として生きるために」
ユメは今、大きな何かにぶち当たっている。
忍者という自分が揺らぐほどの。
「‥そうだ、ネジ。何か用があったんじゃ?」
「いや、用というほどでもないのだが‥」
まさしく身も心も弱っている時に言うのは卑怯だろう。
「話があったんだ。
だが、‥そうだな、俺は『中忍になったら話す』と約束した。ならば、やはり中忍になってから、お前に話すのが筋だと思い直した」
少しでも、追い付いてから伝えよう。お前に敵わないままじゃ情けないからな。
「ネジはそればっかりね。本当は話す気ないんでしょう?」
「そんなことはないのだが、な」
早く追い付いてやる。
だから、お前も早く立ち直って、俺の進む先にいてくれ。
迷いなどないように見えていたから。正直俺は戸惑っていた。
いつもユメは、忍者であることに誇りを持って己の忍道を進んでいるように見えていたんだ。
己の忍道を突き進むこと。
簡単なようで難しいものだ。
あいつが俺に教えてくれた。うずまきナルト。
‥そうか。
「うずまきナルトは、お前の言う本当の強さを持っているかもしれないな」
熱からか、うつらうつらとし始めたユメに。ふと、思ったまま言葉にしただけだったのだが。
「‥うん。‥ナルト‥‥会いたい‥な‥‥‥」
何だと!?
聞き間違えかと思いたかった。
しかし、確認しようにもユメはすでに夢の中。
これほど近くにいるのに。
お前のことを全部知っているつもりだった俺は、どれほど馬鹿だったのだ。
自分に呆れて、もはや笑えてくる。
うずまきナルト。
随分とまた強敵じゃないか。
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