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短編集・読み切り



「ホントにー?」


 むにゅむにゅ…


「ほ、ホントにっ!

 あっ、だから…揉まないでっ」


 オレは寝起きの機嫌が悪い。

 うつらうつらしているところを礼儀知ら

ずなキスで起こされた今もよろしくない。

 布越しに揉んでいる島崎の熱も、島崎の

返答次第では直に引っ掻いてやろうかと思

うくらいには。


「じゃあなんでキスしたの?」

「ミツの唇、柔らかそうだなって…ッ。

 ホント、それだけだからっ」

「柔らかそうだったら誰でもキスするの?

 変態なの?」


 島崎の口からどんな言葉が出てくるのか、

自分がどんな言葉を望んているのか、そん

な煩わしいことまで考えるだけの余裕はな

かった。

 ただ寝起きのよく回っていない頭ながら

なんとなく肝は据わっているような自覚は

あった。

 どんな言葉が出たとしても、それが島崎

の言葉であり意志なのだということしか考

えていないかった。


「へ、変態じゃないしっ。

 ミツだけだからっ」

「そんなこと言ってー。

 ただヤリたいだけでしょ?」

「それはっ、だってッ…」


 ム…否定しなかったってことは引っ掻い

ちゃってもいいかなー…?

 寝起きのまだまだ回転の悪い頭で黒い感

情が顔を出す。

 無防備な寝込みを襲う様な悪い奴にはち

ょっとくらい痛いおしおきをしたっていい

…よね?


「だいたいさぁ、本人を目の前にしてオカ

 ズにしてますなんてどの面下げて言える

 のって話だよね?

 そのオカズにしてる相手の寝込み襲って

 キスだけで済ませる気があったのー?」

「ホントに悪戯心って言うかっ、邪な感情

 はなかったんですごめんなさいっ」


 それはそれで、ただヤリたかっただけよ

り悪質なような気がしないでもないのだけ

ど。

 性欲は仕方ない。

 それはお腹が空き、眠くなるのと同じで

体の生理反応だから。

 その対象に自分自身がなっているという

のも、やらせるやらせないを別にして考え

れば悪い気は…しない。

 オレ自身も島崎をネタにして抜いていな

いかと言われればそうでないし、好きの種

類を別にすれば友情以外の感情を抱かれて

いるのだろう。

 少なくとも島崎は本当に嫌いな人間に欲

情するような類の人種ではないだろうから。

 けれど、もし島崎が薄々オレの気持ちに

気づいているのだとして、それを試すよう

な真似をしているのだとしたらそれは悪質

だ。

 …いや、島崎が本当にそんなに聡かった

らしてこなくていい苦労はいっぱいあった

けれども。

 仮にオレの気持ちに気づいているのだと

して、それを弄ぶような性格では…もとい

そこまで頭がいいとは考えられないけれど。

 いや、そもそもオレの気持ちってなんだ?

 オレはただの友達だし。

 抜きっこするくらいなら幼馴染とか兄弟

ならフツーだし。多分。

 オレは一人っ子で、生憎と抜きっこする

ような幼馴染はいないけどさ。

 あー、もー、だから寝込みにキスなんか

してきたバカ島崎が全部悪いっ。


「しゃせーするしか能のない腐れチ●ポな

 んて100回くらい折れちゃえばいいよ

 ね」

「ちょッ!!マジ勘弁してくださいッ死ん

 じゃうッ」


 布越しにスルスルと擦っているだけなの

に身を竦ませた島崎は半分涙目でオレの右

手首を掴む。

 無断でキスをかました罪悪感と急所を握

られている恐怖がないまぜになった表情は

つつき回したくなるような泣き顔だ。

 もっと泣かせたい…なんて言ったら島崎

は本気でビビリそうだから言わないけど。





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