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短編集・読み切り



 でも、とも思う。

 きっといつかこんな歪な関係も終わるだ

ろう。

 岡本が逃げるのが早いか、それとも高取

が飽きるのが早いのかはわからないけれど。

 それでもこんな関係はずっと続くはずも

なく、その時に俺達の関係がどう変わるの

か。

 まるで何事もなかったように日常に溶け

込むだろうか。

 バカやって、笑い合って、授業は適当に

サボって、放課後には寄り道して。

 岡本に手を出す前と同じようでいて、同

じには戻れないジレンマを抱えながら。


「……」


 元に戻れないからどうだというのだ。

 そんなことは岡本に手を出した時から誰

もが覚悟していたはずで、そんなことを気

にするなんて本当に今更だ。

 岡本に手を出したのに深い理由なんてな

くて、ただの暇潰しで…それ以上でもそれ

以下でもない。

 それなのに耳の奥に蘇る熱い吐息。

 脳裏に浮かび上がるのは快楽に耐える表

情。

 それを見られるのもそれまでだろうとい

うのも解っている。

 歪な関係が修正されれば、最初からなか

ったもののように日常に戻るだけだ。

 それでいいと思う反面、水面下で蠢く感

情がさざ波を立てる。

 けれどそれを解決する手段など思い浮か

ばない。

 暗い快楽は関係の修復と共に闇に葬られ

るべきなのだ。

 でなければ必ずどこかに歪みを残す。

 容易くは正せない歪みを、だ。


「今が楽しければいいじゃないか…」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 先のことなど考えるべきではない。

 そもそもが今の関係が正しい形ではない

のだから。

 その時になったら案外すんなりと受け入

れられるかもしれない。

 だとしたら今から思い悩むのは無駄だ。

 すっかり投げ出したままになっていたマ

ンガを掴んで狭い個室から出る。

 マンガを返却棚の上にのせ、薄い鞄を肩

に担ぎ直したところで目の前を二人の人影

が通りかかった。


「あ、あのっ」

「いいから、いいから。

 ちょっとくらいいいだろ?」


 片方は岡本。

 手首を掴まれて引っ張られているけれど、

目はすっかり潤んでいるし、腰をくの字に

曲げてもその股間の膨らみは隠せない。

 昼に皆でマワしたのにまだヤられ足りな

かったのだろうか。

 もう片方は大学生くらいか。

 マン喫のエプロンをつけているしバイト

だろう。


「……」


 マンガを置いてさっさと帰ろうと思った

けれど、トイレに連れ込まれようとしてい

る岡本を見て気が変わった。

 この胸のモヤモヤも誰にでもケツを差し

出す岡本の姿を見れば晴れるだろう。

 確かに高取とは微妙な関係にも思えるが

結局のところ岡本が変態で誰にでも股を開

く限りは何も問題はないだろう。

 目の前に高取がいなくても、あるいはま

ったくの無関係な他人にもケツを掘られる

ならオレが思い悩む必要はない。

 口では嫌がりながらもバイトにトイレに

連れ込まれる岡本を見送って、トイレの近

くの本棚に並んでいるマンガを立ち読みす

る。

 いや、立ち読みと言っても頭の中には内

容なんて何一つ入ってこない。

 ページだけパラパラと捲りながら、バイ

トがやることやってトイレから出てくるの

を待っていた。

 何冊目かのマンガを手に取ったところで

バイトがそそくさと出てきて受付カウンタ

ーのほうへ消える。





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