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短編集・読み切り




「次はこのゲームやろ」

「これ?これってRPGだけどいいの?」

「島崎がやりかけてる途中のデータからで

 いいよ。

 テキトーなところで終われるじゃん」

「あぁ…」


 島崎はガッカリしたような納得したよう

な顔でゲーム機にソフトをセットする。

 わかりやすいと言えばわかりやすい反応

に心の中で舌を出して、暗がりに隠したも

のから目を逸らす。

 夏休みの真昼間からエッチ三昧なんて恋

人同士でなければただのケダモノじゃない

か、と言い訳をして。


「こんの、こっちくんな牛野郎ッ!」

「牛じゃなくてヤギじゃない?」


 選んだRPGはアクション系のRPGで

キャラクターの行動はコマンド選択ではな

く、画面の左から右まで走り回りながら各

色のボタンで攻撃を繰り出すという格闘ゲ

ームに近いタイプのものだ。

 島崎が操作しているのはナックル装備の

主人公キャラ。

 前衛の物理攻撃担当だけあって脇目も振

らずに中ボスと雑魚キャラの群れに突っ込

んでいってパンチを連発している。

 自分で突っ込んでいって“こっち来るな”

と言うだけあって、本当に何も考えてない

んだろうなというのがよく分かるプレイス

タイルだ。

 しかも派手なアクションの奥義を使いま

くっているせいでTP消費が激しく、回復

アイテムがバカみたいに減っていく。

 別に自分の懐が痛むわけじゃないけど、

横で見ながらあーあ…とため息をつきたく

なる。

 オレはというとミニスカ丈のチャイナ風

の衣装を着た少女で物理系のボスキャラの

攻撃力を下げたり、味方の攻撃力を底上げ

したりで忙しい。 

 …というか、戦場を腰からスリットが入

った服で走り回ったら見えてしまうと思う

んだけど、これってなんてエロゲ?とツッ

コミたい。


「ギャーッ死ぬ―ッ!!」

「はいはい、うっさい」


 連続する奥義でTPが底をついたらしい

主人公キャラをアイテムで回復させている

間にボスキャラが術を発動させて黒い槍の

雨を降らせる。

 一気にゲージが削られHPが一桁になり

島崎が情けない悲鳴を上げたところで、前

衛のすぐ後ろまでキャラクターを走らせて

呪文を唱えさせる。

 キャラクターを中心にして足元に大きい

魔法陣が現れ、その内側にいた味方のHP

を70%まで回復させた。


「ふー…助かったぁ。サンキュ、ミツ」

「考え無しに突っ込むからだよ、バカ」


 態勢を整えたところでまた主人公キャラ

がHPを半分まで削ったボスキャラに奥義

を畳み掛けていく。

 奥義だけ連発するなんてバカの一つ覚え

みたいなことなら小学生にだって出来るだ

ろう。

 もうちょっと戦法とか考えればいいと思

うのだが、どうやら島崎には無理な芸当ら

しい。


「そんなことしてると今度こそ死ぬぞー」

「死んでもミツが生き返らせてくれるじゃ

 ん?」


 ドキッ


 さっきの状況から何も学んでないのかと

暗に言ってみたのに思わぬ方向から反撃が

きた。

 いや、島崎にしてみたら深い意味なんて

ないんだろうけれども。

 だけど、でも、想定外のところからいき

なり不意打ちをかけられたら誰だって驚く

というもので。


「ミツ、ミツ!

 死ぬ!死ぬって!」

「えっ?あ…あぁ、うん…」


 ステータス異常の補助魔法の合間に後衛

で攻撃魔法を唱えていた少女キャラに詠唱

を中断させて前衛に走らせる。

 しかし回復の魔方陣が現れる前に大量の

黒い槍を受けていた主人公キャラはボスキ

ャラに強打されて地面にダウンする。

 物理系の攻撃キャラが動き回る前衛ポジ

ションで戦闘不能から復活させる詠唱時間

の長い術を唱えるなんて自殺行為だ。

 群れる敵キャラにどうぞタコ殴りにして

下さいというようなものだから。


「ここはアイテムで……って、え?

 なんで回復アイテムないのさ?」

「あ、この前使いきったの忘れてた」


 …あぁ、笑顔で脳天にゲンコツ落として

やりたい。

 そんな衝動は“たかがゲームだから”と

胸から締め出し、辛くも生き残っている剣

士の少女の傍から後衛で攻撃魔法を詠唱し

ている長身のハンマー使いの横まで駆け戻

る。

 まず何より詠唱している間の身の安全を

確保できなければ主人公キャラと共倒れに

なるだけだから。

 死にかけの剣士の少女はきっとハンマー

使いが攻撃魔法を使い終わった後に回復さ

せてくれる…はずだ。多分。






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あきゅろす。
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