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短編集・読み切り



 それでも店長の目をかいくぐれば余裕だ

とバイト前は言っていたのだが、二人曰く

強面の店長は怒って仁王立ちすれば鬼のよ

うな恐ろしさらしく、バイト途中に抜け出

せた例はないらしい。

 それで暑い、キツイ、辞めたいを毎日の

ように呟いているのだから…自業自得とは

このことだと思う。

 そもそもナンパなんて高取や九条レベル

以上のイケメンでなければおいそれと成功

なんてしないだろう。

 ナンパ成功してしまえばヤリ放題だと思

っているような頭の悪さが顔に出ているバ

カ二人に引っかかるなんて、それ以上に頭

の中身の足りていないバカ女くらいではな

いだろうか。

 なにはともあれ強面の店長のおかげでバ

カ二人は健全な理由で毎日ヘロヘロになっ

ており、今のところバカに引っかかる被害

者は出ていない。

 身近なところで警察沙汰とか慰謝料とか

気まずくなるような話題と縁遠いままでい

られていることに安堵しつつ、バイトしな

がら文句ばっかりツイートしている二人の

呟きを見ながら心の中で舌を出す。

 それを文字にしてわざわざいらぬ火種を

撒くほどオレは暇でもバカでもないからわ

ざわざレスしたりもしないけれども。

 しばらくブーブーと不満ばかりを垂れ流

す二人と宥めるヒデのツイートを横目に放

置し、それがひと段落ついたあたりでヒデ

のツイートにレスをつける。


“オレは予定入ってるから無理だわ。

 悪いなー?”


 欲求不満をたっぷり抱えた二人が“カノ

ジョか?女か?なぁ?”“いいよなーバイ

トしてない奴は。今度紹介してヤラせろよ”

とか頭の沸いたレスをしてくるけどテキト

ーにあしらう。

 …紹介もなにもお前らだってよく知って

て日頃からツルんでる奴だ、なんて天変地

異がおきても教えてやらない。

 島崎は…島崎のあの顔は今はオレだけの

ものだから。


“えー、ミツはダメなのかー。

 島崎は?まだ補習やってんの?”


 ヒデからそんなレスが返ってくる。

 いつもツルんでるメンツの中でレスを返

してこないのは島崎だけだからだろう。

 九条は家族と墓参りで田舎に行っている

から論外だし、高取に至ってはツイートな

んて面倒だとそもそもアプリを利用しても

いない。

 島崎なら今頃シャワーを浴びているか、

或いは台所でチャーハンを作っている頃だ

ろう。

 声をかけるべきかと迷って、やめた。

 オレも島崎も即レスするほどスマホに構

っているわけではないし、必要だと思えば

後でスマホチェックした時にでもレスを返

すだろう。


「ミツ―、チャーハン出来たよー」


 ドアの向こうから島崎の声が響いてオレ

を呼ぶ。

 俺はそれを聞いてアプリを閉じ、島崎の

いる1階へ向かった。




「どう?味見はしたんけど…」

「うん…いいんじゃない?」


 チャーハンを食べるのをじっと凝視され

てどうも居心地が悪い。

 手軽に作った料理でそんなにもオレの反

応が気になるのかと思うけど、どうやら島

崎にとっては重要らしい。

 しかしやたらと塩辛くて油まみれのコン

ビニ弁当のチャーハンに比べれば手作りチ

ャーハンのほうが美味いに決まっているだ

ろう。


「そっかー。良かった」


 えへへ、と照れたような顔でようやく島

崎は自分のチャーハンに手をつける。

 なんだか同棲始めたばかりのカップルみ

たいだなーと考えかけて、イヤイヤイヤ…

と即座に否定する。

 恋人…と呼ぶことすら首を傾げるような

関係なのに同棲なんて先走るにも程がある。

 どうやら夏の暑さで頭がおかしくなって

いるのはバカ二人だけではないらしい。

 …だとしてもあの2人よりはマシだ、う

ん。


「そういえばさ、午後から何するか決めて

 る?」

「んー…」


 いつも遊びに誘ってくるのはヒデの役目

で、カラオケだったりボーリングだったり

と自宅の部屋で遊ぶということがほとんど

ないから何をして遊ぶのかと話題を振られ

ると迷ってしまう。

 バカ島崎の補習を待っている間にマンガ

はあらかた読み返してしまったし、真夏日

の昼過ぎにわざわざ外に出るほど物好きで

もない。

 出かけるにしても日が沈んでからのほう

がいいし、それまで何をするのか考えなけ

ればならない。


「暑いから外は出たくないしー」

「もしないならエッ」

「ゲームって何がある?」


 オレの顔色を窺いつつ何か言いかけた島

崎に不穏な空気を感じて声をかぶせる。

 微妙なニヤケ顔だった島崎の視線が慌て

たようにそらされて、えーっと…っとか考

え込むフリをしているようだ。

 みなまで聞かずともその顔を見れば何を

言おうとしていたのかなんて容易に想像が

できるというもので…。

 昼間っからなに盛ってんだ。

 無言で視線を返すオレに気まずそうに頬

を指先で掻いている。





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