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短編集・読み切り



 ミーン、ミーン、ミーン、

 ジジジジジ・・・


 クーラーの効いた部屋の中、ベットの上

で寝転がりながらマンガを読んでいる。

 忙しい蝉の音も締め切った窓の向こうで

響くだけでさほど耳障りというレベルでは

ない。

 夏休みを前に早々に配られた分厚い夏休

みのテキストはテキトーに穴埋めして大半

を消化し、読書感想文もこれまたテキトー

に書いて仕上げた。

 8月の半ばに残りの課題がテキストの5

分の1と自由研究だけというのは順調な消

化具合じゃないだろうか。

 ページを捲っているマンガもこの部屋の

主のもので内容も繰り返し読んでいるから

既に頭の中に入ってしまっているが、それ

がこの苛立ちの原因なのではない。

 この苛立ちの原因はただ一つ。

 静かすぎるこの部屋の主が不在である―

…ただその一点に尽きる。




 “夏休みいっぱいは吉光のオモチャとし

てなんでも言うことを聞くこと”

 それが島崎が自ら呑んだ条件だった。

 だからこそつまらない補習なんかで夏休

みが潰れないようにと島崎と一緒にテスト

勉強したりして頑張ってきた…のに。

 5教科赤点が当たり前だった島崎にして

みたら赤点を免れた教科があっただけ奇跡

だったのかもしれない。

 けれど化学と数学…2教科も赤点をとっ

てしまったせいで、夏休みも半分は終わっ

てしまったというこの時期になってもまだ

補習で学校に駆り出される日々を続けてい

た。

 こうなるのが嫌だったから、勉強が嫌い

なりにバカ島崎のテスト勉強に付き合った

というのに無駄だったのだろうか。

 前向きに考えるなら5教科赤点よりはま

だマシだし、オマケ程度に自分の点数も上

がってくれたから完全な徒労かというとそ

うでもないのだが。

 そして今日まで赤点補習が入っているせ

いで島崎家の墓参りのメンツから除外され、

島崎は家族が父方の実家から戻るまで数日

間の留守番を言いつけられていた。

 だからこそこうして家の者でもないオレ

が島崎のベッドで遠慮なくゴロゴロしてい

られるわけだ。

 …まぁ内容を覚えてしまっているマンガ

を読んでるだけで面白くもなんともないん

だけれども。


「あーッ、早く帰ってこい、バカ島崎っ」


 退屈を持て余してうつぶせの体勢から体

を反転させ仰向けになった拍子に腕が伸び

て持っていたマンガをうっかりすぐ横の壁

に叩きつけてしまう。

 そのまま落ちたマンガを拾い上げるのも

億劫でそのまま枕に顔を埋めるようにして

擦りつける。

 瞼を閉じた真っ暗な世界に島崎の匂いが

ふわっと入り込んできて幾分か苛立ちが遠

のく。

 補習とて丸一日やるわけではないし昼前

には帰ってくるのだから、待てないと駄々

っ子のように物に当たり散らすつもりは毛

頭ない。

 今日で赤点補習も最終日なのだから、島

崎父の盆休みの最終日までは島崎を独り占

めできるはずだ。


「どうやって泣かせよーかな…」


 そう考えると楽しくて唇の端が自然持ち

上がる。

 島崎の匂いのする枕に半分顔を埋めたま

まクスクスと笑い声を漏らした。

 バカと性欲しか頭に詰まってなさそうな

島崎だけど、安易に“何でも”なんて取引

を持ち出したことを身をもって後悔しても

らおうと思う。

 まずは駄犬並みに躾のなっていない島崎

に“待て”を教え込むのが第一歩だろうか。

 突っ込むことと出すことしか頭にないバ

カだから、すでにそれだけで超難関かもし

れないけど。

 でもお預けなんて“何でも”に島崎が頷

いた時に過った考えに比べれば躾として甘

すぎる部類だ。

 自分がどういう相手に欲情しているのか

…それを身をもって知った時、島崎はオレ

にドン引きするだろうか?

 やっぱり自分はノンケだったと怯えて逃

げ出すだろうか?

 島崎の答えとしてそれを突き付けられる

のは怖い気もする。

 でも一方で、同性のケツに突っ込みたい

なんて本気で思ってる島崎だって褒められ

た趣味ではないとも思う。

 いざとなれば若気の至りと夏の暑さのせ

いにして…なんて考える位には自分の性癖

がおかしいことは自覚している。

 それもこれも高取が変なことにオレ達を

変なことに巻き込むから悪いんであって…。





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あきゅろす。
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