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短編集・読み切り



「うーん…探さないんじゃないかなぁ。

 それならそれで、別の方法を試したりさ。

 それに俺はホモじゃないし。

 男なのに欲情するのってミツだけだよ」


 島崎のアホっぷりはやっぱり健在だ。

 言ってることが端から矛盾している。


「別の方法でいいなら、なんで最初からそ

 っちを試さないんだよ?

 それに“男は”ってことは女なら誰でも

 いいってことじゃないの?」

「それは……だって、俺の想像の中ではい

 つも…」


 言いかけてからしまったというように口

をつぐんだようだったけど、自棄にでもな

ったのか蚊の鳴くような声でもごもごと続

けた。

 それを聞いて怒りを通り越して呆れた。

 島崎がオレのどんな妄想で抜いているの

かも漠然とだが理解してしまった。

 コイツは本当にオレをネタにして抜いて

るんだなぁとどこか他人事のようにしみじ

み実感する。

 
「それに確かに可愛い女の子とか通りかか

 ったら思わず見ちゃうけどさ、だからっ

 て野坂や尾山みたいに誰でもいいから突

 っ込みたいかっていったら違うし。

 確かに可愛いとは思うだろうけど、だか

 ら何かしたいっていう風には思わないし」


 島崎はオレの視線に堪えかねたのか言い

訳を続けるけど、オレの中のモヤモヤは一

向に晴れない。

 それが何なのか、オレ自身も解らなくて

余計にイライラする。

 オレが欲しい気持ちも欲しい言葉も、そ

れが島崎の本心であって欲しい。

 そうでなくては意味がないとも思うのに。

 それは体を差し出さなければ得られない

ものなのか。

 島崎がオレに欲情することに決して悪い

気はしないけれど、それ以上の気持ちを得

たいなら島崎の性欲を満たしてやらないと

いけないというのか。

 それとも、もともと性癖的にホモじゃな

いとハッキリ言いきる島崎にこれ以上の感

情を求めるのはオレの我儘なのだろうか。


「オレはケツの穴を弄られて感じるような

 …岡本みたいな変態じゃないから。

 岡本みたいにケツに突っ込まれて喜ばな

 いし、島崎がどんなに願ってもそんな日

 は来ないかもしれない。

 それでもお前はオレがいいの?」


 そんなオレでもいいの?

 お前がその気になって探したら、ヤらせて

くれる相手くらい見つかるだろう。

 性癖はノーマルだって言いきるのだから、

異性と普通に恋愛してセックス出来る未来だ

って十分にあるだろう。

 それなのに友達以上の感情を抱いていない

だろうオレが島崎とセックスしてもいいと思

える日まで待てるというのか。

 どんなに待ってもそんな日がこなかったと

しても、島崎は後悔しないというのか。


「ミツ」


 俯くオレの指先に指を絡めて、頬に唇が押

し当てられる。

 なんだかくすぐったいような感触で、思わ

ず島崎の方へと視線を戻す。

 優しく、どこか慰めるような労るような声

のせいだったのかもしれないけど。

 そのキスや声にはオレの中の何かに触れた。


「この前から言ってるけど、俺はミツが嫌が

 るようなことはしないよ。

 それはわかってくれてる?」

「うん…」


 もしも島崎が自分の性欲を優先させたいと

思っていたら、もっと強引な手段に出ること

も出来る筈だ。

 島崎はアホでバカだけど、体格や体力の差

を考えると強引に押さえ込まれたら抵抗でき

ない。

 そういう意味ではある程度は信じているし、

だからこそ島崎の家族が留守にしている間に

泊まりに来ているのだ。

 本当に島崎をケダモノだと警戒していたら、

いくら島崎を自由にしていいと約束したとし

てもホイホイ泊まりになんて来ない。

 ……だからこんな状況になっている訳だけ

ども。


「じゃあミツは何が怖いの?」


 …お前がオレに失望して離れていくことが。

 じっと見つめてくる島崎に、たった一言そ

う言えたならどれだけ楽だろう。

 けれどその言葉すら何かが変わってしまい

そうで口に出来ない。

 オレの望むものと島崎が求めているものの

温度差を島崎に知られてしまったら、もう島

崎や自分を欺けないから。

 適当な言い訳も通じず、ただの友達にも戻

れない。

 ただ体の快楽だけを求めているだけの島崎

との温度差を知りながら、それを直視できる

ほどオレは強くはなれない。






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