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短編集・読み切り



 不意に掌で尻を撫で上げられて思考が現

実に引き戻された。

 撫で上げながら尻肉の間に長い中指が割

り込んできて、狙いすましたようにその指

先を奥の穴に浅く押し込んできた時には一

瞬頭が真っ白になった。

 生理的な反射で尻肉がキュッと締まって

その指を締め付ける様を見下ろして、背後

の気配は今度こそ堪えきれないように嗤い

声をたてた。


「気づいてんのに寝たフリしてたんだ?

 結構好きモンだね、センセ」


 背中に覆いかぶさるように気配はすぐ傍

まで迫り、存在を知らしめるようにグリグ

リとその穴に指先を捻じ込んでこようとす

る。


「そんなわけ、ないッ。

 やめなさい、こんな…!」


 ただでさえ鈍痛に苦しむ頭が嫌悪感と吐

き気に揉まれておかしくなりそうだ。

 押し入ってこようとする指先に好き勝手

させてはいけないと必死に下半身に力を込

めるが、それすら嘲笑うように背後の気配

は耳元に吐息をかけて低い声で囁いてくる。


「センセっていい大学卒業してるのに馬鹿

 なんだね。

 やめろって言われてやめる位なら最初か

 らこんなコトしてないっしょ」

「あッ…」


 無難な言葉をとりあえずは言ってみたも

のの逆撫でする結果にしかならなかったよ

うだ。

 しかも相手は自分のことを知っているよ

うな口ぶりだ。

 こんなことをされるほど誰かの恨みを買

った覚えはない。

 自分を先生と呼ぶことから考えても、知

人や友人という線も薄いだろう。

 しかしもし仮に患者だったとしても、日

に何十人もの患者を相手にしていてその中

から絞り込めというのは無理な話だ。


「君は自分が何をしているか分っているの

 かっ?

 こんなことをして、どうなると…!」

「へぇ?どうなるって?」


 混乱する頭で必死に理論的に考えようと

したけれど、どう頑張っても指先の存在感

に思考をかき乱されて考えがまとまらない。

 余裕を滲ませて嗤う相手は正常な思考回

路ではないというのは分かるけれども、ど

うすればそれをやめさせることができるの

か。

 とにかく会話するしかない事くらいしか

わからない。

 視界も確保できず身動きもままならない

現状では、相手を知り話の主導権を握って

その手を止めさせるしかこの状況を打破す

ることはできないからだ。


「まさかセンセ、男に犯されましたって警

 察に泣きつくつもり?

 俺に何をされたか一つ一つ丁寧に何度も

 説明しても、俺は傷害罪にしかなんない

 よ?

 センセが失うもののほうが多いんじゃね

 ーの?」


 肩を揺らして哂う気配に、その方向から

の話ではその手を止められないのだと知る。


「君だって、失うものがあるだろうっ。

 前科がつけば就職にだって影響するんだ

 ぞ」

「センセが警察で赤裸々に全部白状できる

 んなら、デショ?」


 出来るわけがないと決めてかかったよう

に嗤うが、声の感じからしてまだ学生くら

いかと見当をつけたのは間違っていなさそ

うだ。





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