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短編集・読み切り



 そこにひょっこりと顔を出したのは見た

こともない茶髪の男だった。

 「ちょっと邪魔するよ〜」と軽い口調で

入ってきた彼はファー付きの皮のコートの

下には英文を書き殴ったようなシャツに加

工済みデニムという出で立ちで、ピアスを

はじめとするアクセサリーをいくつも覗か

せていた。

 ぽかんとする私の横をすり抜けた彼は、

後ろから追いかけてきたらしい父が声をか

けるより早く祖父に怒鳴りつけられていた。


「龍哉ッ!!

 お前はとっくに勘当しただろうッ!!」


 滅多に声を荒らげない祖父が顔を真っ赤

にして怒鳴りつけても、茶髪の男はヘラッ

と笑って見せただけだった。


「そんなこと言われてもねー。

 ばーちゃんに夢枕に立たれちゃしょうが

 ないでしょ」


 祖父が仁王立ちで怒鳴りつけるのも聞き

流しているのか涼しい顔で祖父の背後にあ

った仏壇の前に座って両手を合わせる。

 さすがに拝んでいる人には祖父も手は出

せなかったようだが、奥歯を噛みしめる横

顔には青筋が浮かんでいた。

 手を合わせた彼がじっとしていたのはど

れくらいだったか。

 やっと駆けつけたような顔の父が声をか

けようとした時にはもう彼は立ち上がって

いた。


「ハイハイ。

 そんな怒鳴んなくてもすぐ出てくって。

 あんまキンキン怒鳴ってるとポックリ逝

 っちゃうんじゃない?」


 茶髪の彼の冗談めいた言葉に祖父はまた

二言三言怒鳴ったけれども彼はやはり気に

するそぶりもなく、正座したままぽかんと

見上げていた私と偶然目が合った。


「あー、コイツ兄貴の子供?

 親父に何言われてたのか知らないけどさ、

 そんな死にそーな面するくらいなら好き

 なように生きれば?

 泣いても笑っても人生一回きりなんだし」


 軽い口調のまま実にあっさりと彼はそん

な言葉を投げてきた。

 そして横を通り抜けざまに頭にぽんと掌

をのせると、祖父の怒声を背中に受けなが

ら行ってしまった。

 私はと言えば、驚きすぎて何も言えなか

ったし動けなかった。

 ただ妙にストンと胸に落ちるものがあり、

暫く放心状態のままだった。

 祖父の塩を撒いておけの声にようやく我

に返ったけれど、もうどこにも彼の姿はな

かった。





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