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短編集・読み切り



 その後すぐに夏休みに入ったのは良かっ

たのか悪かったのか。

 通っていた塾では高校受験を見据えた夏

期講習が始まり、学校と塾とで大量に出さ

れる宿題に夏休みはみるみる消費されてい

った。

 クラスメイトに邪魔されない環境での勉

強は思っていた以上に捗る一方で、9月の

登校日のことを考えるだけで憂鬱になった

りもした。

 新学期になれば心機一転、何か変わるか

もしれないという淡い期待は初日に打ち砕

かれた。

 毎朝のように頭痛や腹痛で苦しんでいた

のはストレスのせいだと今ならわかる。

 それでも無理をして登校し続けた日々は

苦痛でしかなかった。

 風邪で熱を出して欠席したことをきっか

けに、今までのクラスメイト達と同様に不

登校になった。

 良い息子でいることも、優等生でいるこ

とも投げ出して、日がな一日テレビやゲー

ムで時間を潰した。

 両親に今までにないほど繰り返し叱責さ

れたが頑として譲らなかった。

 仕事の忙しさを理由にどこにも遊びに連

れて行ってくれないことや、外でばかり仲

のいい家族を演じさせられる冷え切った家

庭は苦痛だと訴えた。

 自分が良い息子でないなら、両親もまた

良い父親良い母親ではないと非難した。

 そうして部屋に閉じこもった。

 そのドアを両親が叩くことはなかった。

 仕事の忙しさを理由にしているんだろう

と私自身も無関心になっていった。


 転機になったのは冬休みに引きずられる

ようにして祖父母の家を訪れた時だった。

 引き籠った生活が長引いてきて漠然と将

来への不安で押し潰されてきそうになって

いたことが大きかったかもしれない。

 両親が持て余すようになっていた私は厳

格な祖父を前で正座させられ、今までの生

活について詰問され叱責された。

 口数も少なく厳しい祖父の前では問われ

たことに対する回答以上の発言は禁じられ、

ただひたすらに厳しい言葉に黙って耐える

しかなかった。





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