短編集・読み切り
*
「でね、その時彼と目が合っちゃってね、
胸がキュンてしたのっ!」
だんだん興奮してきて声が大きくなる隣
のクラスの倉田。
それをいつものへらっとした笑顔を浮か
べて聞いている慶一。
このへらっとした腐れ縁の幼馴染は、占
いが当たると女子に人気だ。
占いといってもカードや水晶なんかの占
いアイテムは一切使わない。
ただ話を聞いてうんうん言っているよう
にしか見えない、俺には。
適当に相槌を打って、アドバイスらしき
ことを言って、それでおしまい。
でも日頃からボーっとしていてヘラヘラ
笑っている慶一はいわゆる“ゆるキャラ”
扱いされているらしく、女子のほうも話を
聞いてもらえればいいのか慶一が適当なこ
とを言って外れても噛みついてこられたよ
うなことは未だかつてない。
くそっ…大判焼き一個でつられるなんて
間違ったか…。
そんな二人のやりとりをなんで机にへば
りついて聞いているのかと言えば、慶一が
「待っててくれたら大判焼き一個」と言っ
たからで。
でも興奮する倉田の話は終わりが見えな
い。
すでにたっぷり1時間ほど費やしてほと
んど一人で喋っている。
ぐううううぅぅ…
腹減った。しぬ。
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