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短編集・読み切り



 両親だけでなく親戚一同揃って医療従事

者の多い家系に生を受けた時点で、私が医

学への道を歩むことは期待されていたとい

うよりも必然とさえ思われていた。

 そこに空気があるから吸う、それと同じ

事のように。

 そのことに一度も疑問を抱かなかったか

と言われれば答えは否だ。

 そしてただの一度もその道を諦めようと

しなかったかと問われれば、それも否だ。


 私立中学だったとはいえ、理屈ではどう

にもならない子供独特のルールに支配され

た学校生活は息苦しくて仕方なかった。

 それに上手く適合できなかった者がクラ

スメイト達の行き場を失ったストレスのは

け口にされる。

 一つ一つはいじめとは言えない些細な事

でも、それらが重なればそれはいじめだ。

 けれども一つ一つは些細なことであるだ

けに、大人に訴えても考え過ぎだと相手に

されないことが多い。


 クラスで数人の生徒が不登校になったり

休みがちになったりするのを知ってはいた

が、その陰湿ないじめに加担する暇も惜し

くて私はただひたすらに勉強していた。

 テストの順位で両親に何か言われること

はなかった。

 だがテストの点数が悪かった時には苛立

ちの籠った溜息をつかれながら何が悪かっ

たのかを一つ一つ復習しなければならなか

った。

 それが当時は何よりも苦痛だった。

 息子という役割を満足に果たせなければ

家にすら自分の居場所がないような恐怖に

かられていた。


 しかしそんな姿がクラスメイト達にとっ

ては面白くなかったのだろう。

 中学2年の春、早々に1人目の生徒が学

校を休みがちになった。

 ちょうど同じ頃、学校で中間テストの結

果が発表された。

 学年で上位をとった者のリストが貼り出

される。

 正直、点数さえとれていれば順位など私

にはどうでもいいことだった。

 それを見て束の間の安堵を得ていた私に

話しかけてきたのは同じクラスの1人。

 いじめの主犯格であった彼は苦手とする

一人で、言葉少なに適当な理由をつけて走

り去った私を“生意気”だとしたのは彼だ

ったのだろう。


 そうしてテスト結果発表の翌日からいじ

めが始まった。

 隠されたテキストやノートは落し物とし

て善意の提出されたり、捨てられた筆記用

具は自分の物と勘違いをしたと嘯かれた。

 陰口や嘲笑は日増しに大きくなった。

 それでもいじめなど弱く思考の幼い者が

するものだと耐えた。

 無視していればいつかはターゲットを変

えるだろうと思っていた。

 しかし無視することでいじめはエスカレ

ートした。

 次の標的にされるのが嫌でクラスメイト

の誰も手を出しては来ない。

 私自身も両親や教師を煩わせるのが嫌で

何も言わずにいたこともそれを助長させた

のだろうと思う。





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