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短編集・読み切り



 文化祭が終わってミツの手が空けば知ら

ぬ間に仲直りしてくれるのではと淡く期待

してしまう。

 しかし一方で、文化祭が終わって数週間

後には期末テストが控えており、そのテス

トが終わればもう冬休みだ。

 どこかでチャンスがないと冬休み明けま

で引きずるのではという不安もある。

 長引けば長引くほどこじれて、面倒なこ

とになるのは目に見えている。

 どちらとも友達付き合いがあり一緒に遊

ぶ機会が多い身としては、なるべく早めに

和解してしまってほしい。

 喧嘩の最中だからと片方だけを遊びに誘

ってもう片方を無視するなんて、さすがに

誘う方も気持ちのいいものではない。


「シワ、寄ってるぞ」

「あ、悪い」


 無意識のうちに腕組みして眉間にしわを

寄せていたらしく、九条に額をつつかれな

がら指摘されて慌てて組んでいた腕を解く。


「中谷は気を揉みすぎだ。

 あの二人も子供じゃないんだから、自分

 たちの問題は自分たちで解決するだろ。

 もしそれが出来ないようだったらこっち

 に話を振ってくるだろうし、それまで待

 ってたら?」

「そう、だけど。

 クリスマスとか、初詣とか、どうせなら

 みんなで楽しみたいじゃん。

 二人があんなんじゃ、どっちも誘えなく

 なる」


 例えば誰かに恋人ができた、とかいうな

ら話は別だが。

 そうでなければ、友達と集まってしょう

もないことで騒いで盛り上がって楽しい思

い出を作りたい。

 その思い出にはあの二人もいて欲しい…

と望むのは我儘だろうか。


「あの二人はなんだかんだで相性がいいと

 思うけど。

 吉光が何をそんなに怒ってるのかは知ら

 ないけど、島崎の心が折れるまでは放っ

 ておくほうが波風立たないんじゃないか?

 島崎が弱音を吐いて泣きついてきたら、

 その時に背中叩いて励ましてやればいい」

「九条…」


 “まぁ俺が偉そうに言うことでもないけ

どな”とはにかむ九条を見ながら、じんわ

りと温かい気持ちになる。

 本当に同い年かと思うほど九条は大人び

た考え方をするし、さり気ない気遣いやフ

ォローが上手い。

 九条は出会った時から今までずっと苗字

で呼び合っている。

 しかし“ヒデ”とあだ名で呼んでくるミ

ツや島崎達と比べて距離の差を感じたこと

はない。

 それは九条が纏う落ち着いた穏やかな空

気のせいかもしれなかった。


「ありがと。

 あの二人はもうちょっと放っておくこと

 にする」


 笑い返すと九条も頷きつつ、重力に引か

れたスポーツバックを肩に抱え直した。


「じゃあ俺はもう行くから。

 また明日な」

「うん。またなー」


 教室を出て行く九条の背中を幾分か軽く

なった気分で片手を上げて見送った。




              END





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